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めこねこの日々のあれこれ  作者: めこねこ


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―第0️⃣8️⃣6️⃣話― 【アイスクリーム】甘い誘惑の代償——チャトランの受難と、妻の独立宣言。

我が家のアイスクリーム事情は、なかなかに複雑です。

まずは、悪い話のほうから。



■ 甘い匂いに、誘われて


うちの猫四匹の長女、チャトランの話です。


推定十二歳。食いしん坊で、年は取ってきたとはいえ、本人はまだまだ現役のつもりでおります。そのチャトランが先日、大きく体調を崩しました。四キロ近くあった体重が、二キロ台前半に迫る勢いで、みるみる落ちていく。食欲も落ち、お腹はゆるくなり、吐き戻しも増える。


以前にも一度、原因不明の不調で、あの子が長く患ったことがありました。あの時は、いくら検査をしても体に異常は見つからず、結局、エナジーちゅ〜るの力を借りて、なんとか持ち直したのでした。


今回もまた、はっきりした原因は分かりません。ただ、今度は一つだけ、思い当たる節があったのです。


——アイスクリームです。


妻たちが食べている、あの甘いアイス。ミキサーの音や、ハーゲンダッツの蓋を開ける気配に、いの一番で反応するのが、昔からこのチャトラン。四匹のうちで唯一、ダイニングテーブルの上までのぼってきては、ねだるのです。あんまり熱心にせがむものですから、「これくらいなら、まあ」と、ほんの少しだけ、あげていました。


けれど——寄る年波、というものでしょうか。長らく平気だったはずのアイスが、どうやら、あの子の身体には応えるようになっていたのです。



■ 犯人は、これだ


病院で元気の出る手を尽くしてもらい、こちらも手を変え品を変えごはんを工夫して、ようやく体重も戻り、元気が出てきた頃のこと。またしても、家族がアイスを食べているところへ、あの子がすっと寄ってきました。まだ本調子とは言えなかったので、本当に少しだけ、あげてみたのです。すると——てきめんに、また崩しました。


犯人は、これだ。

その日のうちに、我が家ではアイスクリーム全面禁止令が下りました。


もっとも、当のチャトラン本人は、自分の何がいけなかったのか、なぜ我慢しなければならないのか、まるで分かっておりません。せっかく元気になったのに、みんなが食べているアイスを、どうして自分にだけくれないのか。意地悪をされているに違いない——と、このところ、しきりに猛抗議をしてまいります。


その抗議たるや、甘えきった声で足元に擦り寄り、上目づかいで見上げてくるのですから、こちらは良心が痛んでたまりません。ほとんど、拷問です。


おまけに、体調を崩して以来、あの子のお気に入りの、少々お高いフードを買い続けているものですから、懐まで痛い。だからこそ家族には、「くれぐれも、テーブルの上のものには気をつけて」と、念を押しておかねばならないのです。


……まあ、元気に抗議できるくらいには、すっかり回復してくれた。それだけで、良しとしましょう。



■ さて、もう一つの困りごと


こちらは、妻と娘の話です。


念のため申し上げておきますが、私はレディー方の体重について、自分から触れることは、絶対にいたしません。いたしませんが……このところ、二人のこそこそ話が、どうにも増えているのです。


理由の見当は、ついています。近所のアイスクリーム工場。出来立てを出荷前に割安で分けてくれる、それはもう本格的なやつです。コンビニで一個買うのと同じ値段で、二倍は食べられる料金設定。これがいけない。量そのものは大したことがなくても、なにせ乳製品と糖分。じわじわと、着実に、身体に積もっていくわけです。



■ 娘からの、相談


そんなある日。妻のいないところで、私は娘から、こっそり相談を受けました。


思春期に入って、少し距離のできていた娘のほうから、声をかけてくれた。用件が何であれ、父としては、それだけで嬉しいものです。


もっとも、お目当ては、どうやら私のダイエットの心得だったようですが……そこは、深追いしないでおきます。とはいえ、中学生の娘に、父の無茶なやり方をそっくり授けるのも、違う気がして。返したのは、たいそうな秘訣でもなんでもありません。


「甘いものを、ちょっとだけ我慢して。あとは一緒に身体を動かして、父ちゃんが、もう少しちゃんとしたごはんを作るよ」


要は、家族で一緒に、ほどほどに。それだけの話です。せっかく厨房に立つ父がいるのですから、揚げ物ばかりでない献立も、たまには腕の見せどころ、というものでしょう。



■ 妻の、独立宣言


問題は、このままだと、妻が置いてけぼりになることです。

娘のいない隙を見て、妻にも、そっと声をかけてみました。


「娘と一緒に、ちょっと身体を動かそうと思うんだけど。あなたも、どうですか」


返ってきたのは、こうでした。


「私の体重は、平均的です」

「……はあ」

「余計なことは、言わなくて結構。私は、自由に生きるので」


……ごもっとも。

食の番長にして、我が家の絶対君主。その一言の前では、私に、返す言葉などありません。



■ そして、息子は


そんなふうに、我が家がアイスクリームを巡って、あれこれ揺れている一方で。

息子はというと、相変わらず、ガリガリのままです。


毎日テニス部で真っ黒に日焼けして、身体つきこそ少し男らしくなってきたものの、中身はひょろひょろ。先日など、学校から健康診断の結果を持ち帰ってきたら、用紙に、こう書かれておりました。


「体重が大きく減少しています。体調に問題はありませんか」


……いえ。至って、健康です。ただ食が細くて、ガリガリなだけなんです。先生、すみません。


痩せさせまいと高級フードを買われる猫。太るまいとアイスと戦う、女性陣。そして、痩せる一方で心配される、息子。我が家の体重を巡る攻防は、どうにも、方々でちぐはぐです。


さて。我が家のアイスクリーム好きたちは、これから、どこへ向かうのやら。


……白状すると。その行く末を、実はいちばん心待ちにしているのは——夜な夜な、こっそり冷凍庫を開ける、この私なのかもしれません。

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