―第0️⃣7️⃣2️⃣話― 【梅雨の終わり】雨の日の息子の外出——カラオケ五時間と、幻のプロボウラー。
昨日は、朝から線状降水帯も発生する、大雨の一日でした。
とはいえ、昼を過ぎると雨は小康状態になり、少し落ち着いてきた。すると、息子が私に言ってきました。
「今から友達と街で遊ぶんだけど、車で送ってくれない?」
聞けば、前々から日曜に遊ぶ約束をしていたものの、雨が強くて迷っていたのだとか。天気予報では午後から小降りになる。じゃあ決行しよう——そういう話になったようです。
勉強のことやら、思うところもなくはありません。が、友達との交流も、青春の大事な一部。私は、送ってやることにしました。
■ 父の頃と、息子の頃
道中の車内で、息子に聞きます。
「友達ってのは、誰が集まるんだ」
息子は楽しそうに、名前を挙げていく。どうやら、いつものメンバー。同じクラスの、仲良し五人組です。
「で、何をして遊ぶんだ」
「ん? カラオケ」
——カラオケか、と思いました。
私が高校生の頃、街で遊ぶといえば、買えもしない洋服を眺めに行くか、ゲームセンターでした。ちょうど、ストリートファイターⅡの大ヒットを受けて、格闘ゲームが続々と登場していた全盛期。カプコンの格ゲーに、追いかけるようにSNKの餓狼伝説。友達と対戦しては、熱くなっていたものです。
カラオケは——私の頃は、まだ通信カラオケが普及する前で、そこまで一般的な遊びではなかった記憶があります。
今どきだなあ、と思いながら、待ち合わせ場所まで送り届けました。
■ 帰ってこない息子
夕方になり、そろそろ晩御飯、という時間。ところが、息子が帰ってきません。
LINEで「飯の時間になるが、どうする」と送っても、一向に返事がない。どうしたものかと思っていると、ようやく返信が来ました。
「カラオケは出たけど、もう少しだけ遊ぶ」
時刻は、十七時過ぎ。これは、夕飯には間に合いそうにない。「気をつけて帰ってこい。雨は止んでるけど遅いから、最寄り駅までは迎えに行く」と返して、帰りを待ちました。
そして、十九時半頃。「駅に着きそう」との連絡で、迎えに出ます。
満面の笑みで、電車から降りてくる息子。そのまま車に乗せ、五分ほどの帰り道で、今日のことを聞いていきました。
■ カラオケ五時間の、体力
「結局、カラオケはどのくらいいたんだ」
「ん?五時間」
——ご、五時間。
いったい、どれだけ歌えば、そんなにいられるのか。
「五時間って、喋ってる時間もあるんだろ?」
「いや、ずっと誰かしら歌ってたよ」
さすが、高校生。体力が有り余っています。
「でも、同じ曲を歌ったりするんじゃないのか」
「いや、五人もいるからね。全然歌い足りないよ」
五人が順番に回していくので、一人あたりの持ち時間は、単純計算で一時間。それでも「歌い足りない」と言うのですから、大したものです。
「で、そのあと、どうしたんだ」
「今日はね、初めてボウリングに行ったんだよ」
満面の笑みの正体は、どうやら、これだったようです。
■ 幻の、プロボウラー
「でね、僕、最初のゲームは勝ったんだよ。初めてストライクとか取っちゃった」
ビギナーズラックというやつか、調子よく勝てたらしい。
もしかして、この子、ボウリングの才能があるのでは——と、親の欲目で一瞬期待しかけた、その矢先。息子は、こう続けました。
「そうそう。普通は、中指と薬指と親指を穴に入れて投げるんだよね」
「そうだけど」
「なんか投げにくくてさ。人差し指と中指と親指で、投げてた」
……。
握力の弱い、ヒョロヒョロの体型。どうやら、まともに指が入らず、変則的なフォームでしか、球を投げられなかったようです。
「指を怪我するから、普通の持ち方でやりなさい」とは言っておきましたが、私の中で芽生えかけた「プロボウラーの息子」という夢は、ものの数秒で、潰えたのでした。
それにしても、と思うのです。
カラオケ五時間を歌い切る体力。初ボウリングで、自己流のまま勝ってしまう度胸。この子には、妙なところに、無尽蔵のエネルギーが眠っている。
そのエネルギーの、せめて何割か。
どうか、勉強のほうにも、分けてやってはくれないだろうか——と、満面の笑みの息子の横顔を見ながら、私は静かに、切に、願うのでした。




