―第0️⃣6️⃣9️⃣話― 【氷菓大戦】アイスクリームにまつわる、攻防戦。
わが家の近くに、アイスクリームの製造工場があります。
有名なメーカーではあるのですが、コンビニなどの小売店で見かける商品というより、どちらかといえば業務用を作っている会社です。そして、その工場には——知る人ぞ知る、直売店があるのです。
これが、実にオトク。
普通に買えば二〇〇〇円近くする2リットルのアイスクリームが、工場直販のアウトレット扱いで、半額以下。種類もそこそこあって、選ぶ楽しみもある。本格的なバニラビーンズがふんだんに使われたアイスは、贅沢な味わいで、わが家の夏の食卓を彩るデザートとして、大いに楽しませてもらっています。
見た目は、ただの工場。まさかそこで、業務用アイスを個人に売ってくれるとは思われていないのか、知る人ぞ知る穴場なのですが——買いに行くと、次々にお客さんがやってくる。女性だけでなく、サラリーマン風の男性がフラリと立ち寄っていったりもして、なかなかの人気です。
売っているのは二リットルなどの大きいサイズですから、冷凍庫のスペースを考えて、複数のストックはしていません。切れたら買い足す、を繰り返し、なくなれば誰彼となく「アイス買いに行こう!」と催促される、わが家の常備食の一つになっています。
さて。このアイスをめぐって、家族間では毎回、ちょっとしたいざこざが起きるのです。
■ 食の番長・妻の場合
まず、妻。
わが家の「食の番長」であり、食に関しては一切妥協しない人です。たとえば二個しかないお菓子があれば、「子どもたちと三人でジャンケンして、誰が食べるか決めよう」と本気で言い張る、なんともおちゃめなお母さん。息子も娘も、半分呆れ、半分イベントとして楽しんでいます。
そんな妻は、業務用アイスの濃厚さに、すっかり魅了されている。子どもと同じテンションで、取り合いに参戦します。しかも「ちょっとだけよ」と言いながら、結局、一番食べているのが、当のご本人という。
■ お年頃の娘の場合
そして、中学二年生の娘。
親の贔屓目ではなく、特に太っているわけではないのです。ただ、友達にとても細い子が多いらしく、その子たちと並ぶと、健康的な体型の自分が太って見えてしまうらしい。そのため、無理のない程度のダイエットに励んでいます。食べる量を少し控えたり、お風呂の前に軽く体操をして汗を流したり。
そんな娘にとって、アイスは、悩ましい存在です。食べたい。でも、太るのが怖い。特に、翌日がプールの授業だと、水着姿の自分の体型が気になって仕方がないようで。
そんなとき、娘が取るのが——妻がカップに注いだアイスを、横からスプーンでちょいちょい奪う、という戦法。「ちょっとくらい」「ダメ」「いいじゃん」と、母娘でギャーギャーやり合う攻防が、毎回繰り広げられるのです。
■ 空気を読まない息子の場合
そんな二人を横目に、まったく空気を読まないのが、息子です。
妻も体型を気にしているので、カップに注ぐ量は、それなり。そこへ娘が横からちょいちょい仕掛けるので、あの攻防戦になるわけですが——息子はそんな二人を意に介さず、ガバッと、大盛りで取っていく。
理由は、いくら食べても太らない体質。とにかく、線が細すぎるのです。
控えめに食べている母娘を尻目に、満足そうに大盛りアイスを頬張る息子。……その結果、食べすぎて、お腹を壊す。
でも、翌日にはまた食べる。実に、懲りない息子です。
■ そして父は、少し離れて眺める
そんな三人を横目に見ていると、私は、少し幸せな気持ちになるのです。
たかだか、一〇〇〇円ほどのアイスクリーム。それを三人で分け合いながら、毎回、小さなドラマを繰り広げ、あれこれコミュニケーションを取って、仲睦まじく食べている。その光景は、一〇〇〇円ぽっちでは到底見られない、上等なホームドラマのワンシーンのように思えるのです。
え、私は食べないのか、って?
もしかして、三人の輪から、除外されているのでは——と、心配してくださった方。
いえいえ。ちゃんと「お父さんも食べる?」と、声はかけてもらえるのです。ただ、私が、遠慮している。
だって。その分のカロリーは、ハイボールで満たしたいですからね。
賑やかなアイスの攻防を肴に、キンと冷えた一杯をやる。これがまた、格別なのです。
今宵もまた、いい「おつまみ風景」が見られるといいな、と思っています。




