―第0️⃣6️⃣5️⃣話― 【父の晩御飯】娘からの「しっとりチャーハン」というリクエスト、その顛末。
わが家では、土日に厨房に立つのは、父の仕事と決まっています。
一応、毎回、妻や子どもたちに「何が食べたい?」と聞くのですが、思いつかないのか、「なんでもいい」「特にリクエストなし」が大半。結局、妻の「じゃあ、先週と同じで」の一言で、毎週似たようなメニューに落ち着いていました。
まあ、裏を返せば、その定番——主にタコスやお好み焼き、ピザ——が好評だから、ということでもあるのですが。それにしても、そろそろ別のものを作りたい、という気持ちもありました。
そんなわけで今週も、諦めずに娘に「何が食べたい?」と聞いてみたのです。
すると、久々に。
「そういえばさ、あれが食べたいな」と、リクエストが入りました。
■ 娘からの、宣戦布告
期待に胸を膨らませて聞き返すと、娘は一言。
「チャーハンが食べたい。しっとり系の」
意外や、意外。まさかチャーハンのリクエストが来るとは思わず、思わず「なんで、チャーハン? それも、しっとり系って?」と、聞き直してしまいました。
「ほら、この前、父の日とお父さんの誕生日を兼ねて、中華屋さんに行ったじゃん」
娘の話は、あの外食の思い出から始まりました。
「あの時さ、最後に出てきた、しっとり系のチャーハン。あれ美味しかったんだよね。あれ、作って」
——これは、宣戦布告だな、と思いました。
プロの中華料理を食べたうえで、「あれを作って」と言う。つまり、お店の味を上回るチャーハンを、父さんなら作れるだろう、という期待と挑戦。父の腕を試そうという、リクエストなのです。
しかも、あの日、家族全員が「美味しい」と認めた一品が、相手。おのずとハードルは上がり、私はもう、気合を入れるしかなくなりました。
「分かった。任せておけ」
こうして、父の挑戦が、始まったのです。
■ 段取りから、完璧に
まず、材料からこだわりました。
油は、ごま油に加えて、鶏油も用意。最初に鶏油で具材を炒め、最後にごま油で香りづけする、という二段構えの作戦です。
肉も、豚バラと豚こまの二種類。食感と、豚の脂の風味、その両方を活かします。
「しっとり系」というご注文なので、ネギも、あえて白ネギではなく、玉ねぎを使用。さらに、小松菜の茎、豆苗の細い茎、人参のみじん切りを加え、しっとり感を出していきます。
ただし、しっとりとはいっても、ベチャッとなれば、味は半減。余計な水分は、徹底排除です。ご飯はあらかじめ炊いて一度冷まし、よけいな水分を飛ばしておく。卵も、白身は先に水分を飛ばし、黄身は半熟でご飯に絡める。パラッとしながらも、具材でしっとり——という、絶妙なバランスを狙います。
段取りから、完璧です。
もちろん、チャーハンだけではありません。中華風の手羽先焼きに、野菜炒めも仕込んで、準備は万端。
手際よく仕上げ、中華屋さん風に、それぞれの料理を大皿に盛り付けていきます。
中華風の手羽先、厚揚げ入りの野菜炒め、トマトとチーズの中華風サラダ、そして、主役のしっとりチャーハン。大皿に並べれば、立派な「中華屋さんセット」の完成です。
■ 「美味しい」、けれど
家族が、めいめい大皿に手を伸ばし、食事を楽しんでくれています。
娘からも「すごい! ありがとう」と、久々の賛辞。
一口。私以外の家族は、胡椒や辛味が少し苦手なので、薄味に仕上げました。気に入らないかな、と心配しましたが、娘も、息子も、妻も、「美味しいよ」と食べてくれます。
よし、と思った、そのときです。
無情にも、大皿に盛ったチャーハンが、三分の一ほど残っているのです。
「ほら、まだ余ってるよ」と勧めても、みんな、なぜか難色を示す。
やっぱり味が薄かったか、と思いきや、そうではないと言う。
妻は「いや、私、太るから炭水化物は控えてるの」と、サラダと野菜炒めばかりに手を伸ばす。息子は「手羽先、最高」と、手羽先のほとんどを平らげ、それで腹いっぱいになったと言う。娘に至っては「今、ダイエット中だから」と、中学生の女の子らしい、ささやかな量で終了。
——主役を、リクエストした本人が、ダイエットで残す。
味が悪かったわけではない。それは、分かっているのです。けれど、あれだけ張り切った父の挑戦は、最後の最後で、見事に尻すぼみとなったのでした。
■ そして、リベンジを誓う
いえ、いいのです。
私は、静かに、次へのリベンジを誓いました。
次こそは、和食をリクエストしてもらいたい。肉じゃがに、焼き魚、白和え、味噌汁、炊きたてのご飯。今度こそ、家族全員に「完食」させてみせる——。
……ところで。大皿に残った、あのチャーハンは、どうなったか。
もちろん、私の胃袋に、きれいに収まりました。
「しっとりチャーハン」改め、「父の責任完食チャーハン」。おかげさまで、翌朝の体重計が、前日比プラス1キロを示していたことは、私だけの秘密です。
そう。わが家のダイエットは、いつも、父一人を巻き込まずに進行していくのです。




