―第0️⃣5️⃣7️⃣話― 【決戦】いよいよチュニジア戦——イヤホン片手に、息を殺して応援する日曜の午後。
いよいよ、FIFAワールドカップ、日本対チュニジア戦です。
初戦のオランダ戦は、辛くも追いついて、2対2のドロー。「あれ、オランダってそんなに強くなかった?」なんて、私は呑気に思っていたのですが……。
そのオランダ、第2戦でスウェーデンを相手に、5対1の圧勝。
それを見て、認識を改めました。「あの強豪オランダ相手に、よくぞ追いついてドローに持ち込んだものだ」と、世間でも見直されているようです。
そして今日、いよいよ大一番を迎えます。
■ にわかファンの皮算用が、崩れる
私もにわかサッカーファンの一人ですが、テレビやネットの情報を見ていると、どうにも、このチュニジア戦、楽観視できない話ばかりなのです。
にわかなものですから、どうしてもFIFAランキングの数字(日本のほうがかなり上位です)で見てしまい、「余裕で勝てるのでは?」と思っていました。
ところが、どうやら雲行きは、そう甘くないようなのです。
ネットの受け売りで恐縮ですが——まず、チュニジアの戦い方。
守備ブロックの統一性が高く、「相手の良さを消す」のが得意。しっかり守ってから、カウンターでドカンと仕留めるスタイルだといいます。今大会の予選では、無失点で勝ち上がってきた、驚異的な守備力を誇るチーム。
日本がボール保持型で、ドリブルとパスで崩すタイプだとすれば、チュニジアは堅守速攻型。つまり、日本が苦手とするタイプだと分析されているそうです。
■ なりふり構わぬ、相手の本気
ここが、初戦との大きな違いです。
オランダは、どちらかと言えば「真っ向勝負型」。だからこそ、日本も自分たちのやりたい戦術で、堂々と渡り合えました。ところがチュニジアは、日本にとって、実にやりにくい相手なのです。
そして何より、見過ごせないのが、相手の「本気度」です。
チュニジアは、初戦でスウェーデンに1対5の大敗を喫しました。これを受けて、チュニジアサッカー連盟は、なんと大会期間中に、サブリ・ラムシ監督を解任。後任に、モロッコやサウジアラビアを率いてW杯を戦ってきた、フランス人の名将エルヴェ・ルナール監督を据えてきました。
ワールドカップ本大会の「会期中」に監督を交代するという、なりふり構わぬ采配。チュニジアが、この一戦に並々ならぬ覚悟で臨んでいることが、ひしひしと伝わってきます。
森保監督も「スウェーデン戦のチュニジアとは、まったく別のチームと戦う覚悟が必要だ」と、警戒を強めているそうです。
果たして、このあとに、どんなドラマが待っているのか――。
■ そして私は、イヤホンを装着する
さて。そんな大一番ですが、わが家には、もう一つの問題が立ちはだかっておりました。
リビングのテレビが、使えないのです。
妻は、パート先で必要な資格更新のための通信教育に追われ、息子は、来週から始まる定期考査の対策に必死。わが家のリビングでは、サッカーとはまったく無関係な「二つの戦い」が、すでに血眼で繰り広げられている。
「日本テレビでやってるワールドカップチュニジア戦観たいんだけど」などと言おうものなら、冷ややかな視線が飛んでくるのは、火を見るより明らかです。
……ところが、ここで私は、ある事実を知りました。
なんと今大会、DAZNがすべての試合を、無料で配信しているというではありませんか。
これだ。
私はそっとスマホにイヤホンを挿し、リビングの片隅のソファに陣取りました。家族の「戦い」を邪魔しないよう、音は完全に、イヤホンの中だけ。画面の輝度も控えめに。まるで、深夜に隠れてゲームをする中学生のような佇まいで、私の極秘観戦が始まったのです。
■ 声も出せない男の、静かな歓喜
試合が、始まりました。
すると、開始早々の前半4分。
なんと、日本が先制点を奪ったのです。
苦手なタイプと、あれほど警戒していたチュニジア相手に、電光石火の一撃。しかも、ボールを持たされる展開になるという下馬評を覆し、むしろ日本がボールを支配して、押し込んでいる。
「よっしゃあああ!!」
——と、心の中だけで、絶叫しました。
声は、出せません。イヤホンの向こうで実況が盛り上がっていても、わが家のリビングに響いているのは、妻のペンを走らせる音と、息子が参考書をめくる音だけ。
私はただ一人、ソファの上で、声なきガッツポーズを繰り出し、一人で「今のスルーパスがね!」と誰にともなく解説したくなる衝動を、ぐっと飲み込む。
日本代表は、11人がピッチで肩を組み、声を掛け合って戦っている。
一方、わが家のお父さんは、イヤホンの中の歓声を独り占めしながら、声を殺し、誰とも喜びを分かち合えぬまま、たった一人で拳を握りしめている。
同じ「日曜の戦い」でも、その賑やかさには、ずいぶんと差があるようです。
それでも――頑張れ、ニッポン。
このまま、苦手な相手に競り勝ってくれ。お父さんは、声は出せないけれど、イヤホンの奥から、誰よりも熱い念を送っているからな。
(※この記事は、日本が1点をリードした、ハラハラの試合中に書いております。結果は、果たして……!)




