―第0️⃣0️⃣5️⃣話― 午前10時のラピュタ。見えない隣人と私の、2分間の空想
最近、私の日常に小さな楽しみが加わりました。
朝10時頃、いつものコースを散歩していると、
どこからか素敵な「音色」が聴こえてくるのです。
それは、トランペットの音色。
どうやら近所の方が、周囲が出払った時間を見計らって
練習に励んでいるようです。
流れてくる楽曲は、宮崎駿監督の名作『天空の城ラピュタ』。
あの、パズーが朝日に向かって吹き鳴らす「ハトと少年」の一節です。
――――――
最初はぎこちなかったその音も、日を追うごとに様になってきました。
ですが、いつも、あと少し。
「ここを越えれば完璧!」というところで、
決まって一音が詰まってしまう。
そのもどかしさが、
なんだか子供の成長を見守る親のような気持ちにさせてくれます。
その家からの音色が聞こえ始めてから遠くになるまでの
わずか2分少々の演奏会。
私は密かに、その音色を楽しみにしているのです。
――――――
そして、いつも通り過ぎて考えるのです。
たどたどしさを感じる演奏から、
私は勝手に「若い学生さん」が練習している姿を想像していました
しかし、よく考えれば聴こえてくるのは平日の朝10時。
学生なら学校へ、社会人なら仕事へ行っているはずの時間です。
毎日、決まった時間に聴こえる。
ということは……奏者は主婦の方か、
あるいは私より人生の大先輩かもしれません。
そう考えると、選曲が実に興味深く思えてきます。
なぜ、あの「ハトと少年」なのか。
もしかしたら……とお節介な妄想が膨らみます。
「おじいちゃん、かっこいい!」
そう言って喜ぶお孫さんの顔が見たくて、
肺活量を振り絞り、一生懸命に練習している姿。
誰かに届けたい音があるからこそ、
毎日同じ時間に、あの難所に挑み続けているのではないか。
――――――
トランペットは、見た目以上に過酷な楽器です。
その一音に込められた熱量に、私の歩調も少しだけ軽くなります。
さて、いつもの散歩の時間にそのお宅の近くを通れば、
いつものとおり聴こえてくるでしょうか、
あの不器用で、ひたむきな旋律が。
今度こそは、あの引っかかる音を鮮やかにクリアしてほしい。
心の中で小さな拍手を送る準備をして、私は玄関のドアを開けます。




