―第0️⃣4️⃣3️⃣話― 【2週間早い、私の受難】父の日とは一体……
朗報がもたらされました。
「父の日、ちゃんとやるよ」と、昨日、妻から言い渡されたのです。
本日、家族で外食をすると。
妻が3月、パート先の送別会で利用した中華料理屋だそうで、ボリュームがあって美味しく、そして安かった、と。これは家族にぜひ味わってもらいたい——そう思って、父の日に合わせて予約してくれたのだとか。
ありがたい話です。……が。
そのお店、ちょうど父の日の時期に店舗改装に入るそうで、そのため、本日、2週間以上も前倒しで行くことになりました。
なんだか釈然としませんが、味にうるさい妻が勧める店です。美味しいのは間違いないでしょう。
ただ、どうしても、一抹の不安が拭えないのです。
■ 父、4つの懸念を抱える
懸念は、いくつかあります。
ひとつ。今日で終わりなのか問題。
本来の父の日、2026年6月21日には、何もないのでしょうか。いえ、今日でいいんです。いいんですが……なんとなく「ただの休日の外食」と区別がつかない気がしてしまうのです。
ふたつ。誕生日と兼ねてる疑惑。
私の誕生日は6月中旬です。今日の外食、まさかそれも兼ねていないでしょうね。もし兼ねているとしたら、私の誕生日は一体どこへ消えるのでしょう。
みっつ。支払い問題。
誰が払うかはいいんです。私でも妻でも。ただ、結局は同じ財布(生活費)から出るわけで……。これってつまり、「妻が予約をする」という工程が加わっただけで、実質、私が家族にご馳走を振る舞っているのと変わらないのでは……?
よっつ。子どもたちの動向。
父の日が今日ではないので、彼らは何も準備していないでしょう。例の「何か欲しいものある?」の一言も、まだ一度たりとも聞かれていません。残り2週間で、その天使の声は降ってくるのでしょうか。
様々な思いが、胸中を駆け巡ります。
しかし、これを口に出せば家族に亀裂が入ることは、容易に想像がつきます。私は黙って、今日の夕方を待つしかないのです。
■ そして、追い打ち
さらに、寂しいことがありました。
今朝、妻に叩き起こされ、こう指示を受けたのです。
「美味しいスコーンの店があるから、連れて行って」
……今日は父の日(代行)ではなかったのか。少なくとも夕食の時間までは、私はただの運転手のようです。
私は、前世でよほど悪いことをしたのかもしれません。だからこの世界線では、私にだけ「父の日」が存在しないのかもしれない。
世間では異世界転生ものが流行っていますが、私には転生願望などありません。ただ、もし生まれ変わるなら——来世こそは、ちゃんと祝ってもらえる世界線をリクエストしたいところです。
■ スコーンの店にて
そんな哀愁を抱えたまま、私は妻をスコーンの店へと運びました。
自宅に帰り、お昼ごはん代わりに焼きたてのスコーンを食べることになりました。
私もコーヒーを淹れていただくことになります。まあ、これはこれで悪くない休日だな、と思っています。ただ……。
スコーン代は私持ちでした。
そのうえで、妻がスコーンを半分に割り差し出して、言いました。
「はい。父の日だから、半分あげる」
「……これが?」
「先取りの、気持ちね」
中華料理はまだ夜。誕生日の行方は不明。子どもたちの声掛けはなし。そして父の日のプレゼントは——私が買った妻の分のスコーンが半分。
足元で寝ていたちゃとらんが、薄目を開けてこちらを見た気がしました。「お父さん、貰えるだけ幸せなのニャ」とでも言いたげに。
さて、2週間早い父の日。
私の幸せは、どこにあるのでしょうか。とりあえず今は、この手のなかのスコーン半分を、ありがたく噛みしめることにします。




