―第1️⃣0️⃣4️⃣話― 【娘の夏】娘が、動き始めた——マンガを、描く。
先日、妻と娘が、我が街のシンボルであるお城の写真を撮りに行くというので、車で送っていった。
娘の学校の、写生大会。
その前に、構図を確かめるため、写真を撮ってくるように、と。夏休みの課題の一つとして、先生から指示があったらしい。
妻は、運動不足の解消にと娘について行き、帰りに二人で、買い物を楽しむという。
帰りの時間は分からないから、待っていなくていい。そんな流れでの、送迎となった。
■ 別々の、ユニット
寂しいもので。最近は、私が一緒に出かけることが、めっきり少なくなった。
娘は、私を避けているわけではない。話しかけても、くる。ただ、ポイントポイントで、自分と意見の合わないところに引っかかると、少し腹が立つ。それを避けるための、距離の取り方——なのだろうと、思っている。
それはそれで、仕方がない。娘たちを送って、私は一人、自宅で、ポチポチと物書きにふけっていた。
息子も、部活のテニスに勤しんで、私を顧みない。以前は、四人セットで動いていたのに。今は、それぞれが、別のユニットになった。そんな、一抹の寂しさを、感じるようになっていた。
■ 娘が、帰ってきた
さて。娘たちが、帰ってきた。
結構な、荷物である。何を買ってきたのかと聞くと、マンガを描くための画材を、いろいろと買ってきたのだという。夏休みの間に一作、完成させて、どこかのコンテストに、出してみるつもりらしい。
一緒に、りぼんと、ジャンプも買ってきていた。
今まで、読んだことのない雑誌である。本屋でパラパラとめくって、マンガ賞の応募要項が載っていたから、買ってきたのだという。
考えてみれば。漫画家になる、と言っておきながら、本当に、うちにはマンガがない。
いや、あるにはある。
あるのは、私が昔、買っていたマンガたちだ。だが、娘は、そういうマンガが描きたいわけではない、という。
どこで、そう思ったのか。
どの先生の作品で、そう志したのか。普通は、そう考える。だが、そうではないらしい。頭の中に、描きたい絵と、話が、あふれている。それを、描き留めるための手段。それが、マンガなのだ、と。
一時期は、それを、ファッションデザイナーという形に、落とし込もうとしたらしい。それが違うと気づいて、マンガを、目指すようになった。
珍しい。正直に、そう思う。それでも、娘のその一途な思いは、なんだか、眩しく感じて。私は、無条件に、応援している。
■ 「ありがとう」
そんな娘が、先ほど、相談してきた。
「お父さん。このソフト、どうやったら使えるのかな」
娘がマンガを描きたいと言い始めた時に、もしかしたら、と思って買ってやった、液晶タブレット。その機能を、いかんなく引き出せるソフトを、使いたいという。
調べると、買い切りか、サブスクか、どちらかで使えるらしい。買い切りでもいいが、機能が更新され続けるサブスクのほうが、娘には合う気がして。すぐに、契約をしてやった。
娘から、久しぶりに、満面の笑みで「ありがとう」と、言われる。
娘はそう言うと、おもむろに大学ノートを出してきて、画面に向かった。その様子を見ながら、私も、ソファで、同じようにポチポチと文字を打っていると。合間合間に、話しかけてくる。
「今、コマ割りをしている」
「下書きって、どうするのか分からなかったけど。チャッピーに聞いたら、教えてくれた」
「機能を調べながら使ってるから、時間がかかるけど。ずいぶん、覚えた」
嬉しそうに、話しかけてくる。こちらこそ。こんな、わくわくする気持ちを、思い出させてくれて、ありがとう。そう、思う。
■ 血となり、肉となり
今朝、妻に話した。
「知ってるかもしれないけど。娘ちゃん、パソコンでマンガ、描き始めたよ」
妻は、ニヤリと笑う。
「知ってるわよ。昨日で、コマ割り終わったって。疲れたって、言ってたわ」
いつの間にか、そこまで進んでいるらしい。母には、とうに、話していたようだ。
先ほどから、娘は、画面に向かっている。午前中は、夏休みの宿題。午後から、マンガを描き始める。
さて。中二の娘の、挑戦。どうなることやら。
とにかく、明日は、何か、娘の好きな料理を作ってやろう。
私が与える、その栄養が。いつか、娘のマンガの、血となり、肉となるように。




