―第1️⃣0️⃣3️⃣話― 【カナダ短期留学⑦】カナダの思い出——息子が、持ち帰ったもの。
息子が帰ってきて、我が家に、日常が戻ってきました。
相変わらず、朝は寝坊するかな——と思いきや。時差ボケで、少し寝ぼけ眼が過ぎるくらいで。朝は、ちゃんと早い時間に起きられています。そう、ホームステイに発つ前、三者面談で「夏休みは早起きして勉強する」と宣言していた、あの約束。あれが今、なぜか、果たされているのです。
さて。息子から、カナダの土産話を、あれこれ聞かせてもらっています。
■ ホストマザー、パトリシアさん
まず、いちばんに聞いたのは、ホストファミリーの親切さについてです。
ホストマザーのパトリシアさんは、とても良い方らしく、もう何年も、日本を含む各国からのホームステイの学生を、受け入れているそうです。二十五歳と二十歳の、二人の息子さんも、あちこちに、親切に連れて行ってくれたとのこと。
そして、そのホストファミリーとのお出かけが、彼の土産話の、中心になっていきます。
■ 「散歩」は、大自然へ
まず、ほぼ毎日。食事のあとに、パトリシアさんが「散歩に行こう」と、公園へ連れて行ってくれたそうです。
私たちが「公園」と聞いて思い浮かべるのは、近所の、あの公園です。ですが、向こうは、どうも違うらしい。車で、遠ければ三十分ほどのところにある、自然公園のようなところ。そこへ出かけて、散歩をしていたそうです。
カナダ・バンクーバー。ブリティッシュコロンビア大学などのある市街地には、東京をも凌ぐような、立派な高層ビルが建っているそうですが。息子がお世話になった家族の住む地域は、田舎。自然あふれる、風光明媚なところ。その雄大な自然を満喫するのが、日課になっていたようです。
しかも、向こうは、日の入りが、かなり遅い。夕ご飯のあとに散歩に出ても、まだ、じゅうぶん明るかったそうです。(調べてみると、バンクーバーの夏の日没は、なんと、夜の九時過ぎ。道理で、です)
■ ヒトデに、十分間
息子が、スマホの録画を見せながら、話をしてくれます。
見せてくれたのは、港の動画でした。波打ち際、足元を映している。ただの、岩と、海水。なんの、変哲もありません。
「えっと……これは、何だ?」
「いや、パトリシアさんが、興奮しながら『見て、見て』って言うから、撮った」
「え? 何を」
「ヒトデ」
……どうやら、パトリシアさんにとっては、ヒトデが、珍しかったようで。そこで、十分ほど、見入っていたそうです。
九州の子には、見慣れたヒトデ。それが、あちらの方には、宝物のように映る。そういう、価値や発見の違いがあるのも、息子には、とても新鮮だったようです。
息子さんたちとは、山に登ったり、トレッキングをしたりも、したようです。
「植物の種類が、全然、違ったんだよ」
私も、写真でしか見たことはありませんが、あちらは、針葉樹林が多いイメージ。九州は、どちらかと言えば、広葉樹林ばかり。目に映る緑が違うのも、一つの刺激だったようです。
■ 言葉の、壁
何より、私が心配していたのが、言葉です。
息子は、英会話教室などには通わせておらず、ある程度の自学のみで、今のところ、英検準二級。どれだけ喋れたのかと思いきや——案外、喋れたようなのです。
聞けば、ホストファミリーの方々も、地元の高校生のみんなも、こちらの拙い英語を、なんとか聞き取ろうとする姿勢で、接してくれた。だから、恥ずかしがらず、怖がらずに、話すことができたのだと。
そして、息子は、私に宣言しました。
もう少し、真面目に、英語を勉強する、と。
■ そして、娘は
実は——英語の成績だけで言えば、娘のほうが、いいのです。
同じく、特別な教育は、していません。ですが、なぜか、発音がとてもいい。そして、物怖じしない。学校で英語を話す課題でも、英語の先生が驚くような発音で、堂々と喋る。妻など、三者面談で「どちらの教室に、通わせているんですか」と、聞かれたほどです。
唯一やっているのが、ラジオの英語講座。その積み重ねが、娘の英語力を、押し上げたようです。
ちなみに、同じ講座を、息子も、やってはいました。ただ、途中で、やめてしまった。「学校の宿題一つ、満足に終わらないのに、ラジオ英語なんてできない」というのが、彼の言い分でした。……その彼が、今回、思うところがあったようです。
そんな話を、一緒に聞いていた娘が、言いました。
「お父さん。二年後、私のホームステイも、よろしくね」
……娘よ。あなたは、漫画家になるのでは、なかったのか。
まあ、いい。世界に羽ばたく、鳥山先生のような人に、なってくれるのなら。
父さんは、何も、惜しみません。




