―第1️⃣0️⃣2️⃣話― 【カナダ短期留学⑥】お土産、解答編——Made in、カナダ?
カナダ・バンクーバーでの短期ホームステイを終えて、息子が、無事に帰ってまいりました。
不在の間、あれほどヤキモキさせられたというのに。本人は、ケロリとした顔で、到着ゲートから出てくる。それも、ちょっぴり、はにかんだ笑顔で。
車の中では、カナダでの体験を、あれこれ聞きました。そのあたりは、また改めてお伝えするとして——今回、私がいちばん気になっていたのは、例のあれです。
「お土産は、ちゃんと買って帰ってきたのか」
迎えは、私、一人。久しぶりに、怒涛の勢いで話しかけてくる息子に相槌を打ちながら、私は、会話の切れ目を、慎重に探ります。確認できるのは、この場しか、ありません。
「なあ、息子よ。ちゃんと、お土産は買ってきたか?」
息子は、満面の笑みで、答えました。
「うん、買ってきたよ」
■ 第一の土産
そう言って取り出したのが——サングラス、でした。
『西部警察』で、渡哲也さんが演じた、大門団長。あの人がかけていた、レイバンのティアドロップに、そっくりな。……けれど、どこのブランドとも知れない、一本。
いやいやいや。
カナダまで行って、最初に出てくる土産が、それか。息子、恐るべし。そう思いながら、話を続けます。
「いや、それだけじゃ、ないだろう」
「もちろん、そうだよ」
■ 第二の土産、Made in ?
続いて出てきたのは、キャップです。
カナダの国旗にも描かれている、あのカエデの葉が、頭のど真ん中に、どんと一枚。それも、ねずみ色の。
いやいやいや。確かに、カエデと言えば、カナダ。カナダと言えば、カエデ。
だがしかし。そのキャップ。信号で車を停めた隙に、手に取って、見てみました。製造国が、書いてあります。
「メイド・イン・チャイナ」
息子は、無敵です。
■ 第三の土産、Made in ?パート2
「息子よ。もっとあるよな、お土産」
「舐めてもらっちゃ、困るよ。お菓子だって、あるんだから」
安心しました。ちゃんと、お菓子は買ってきたのだと。トランクの奥で、今は出せないので、口頭で、聞いていきます。
「で、どんなお菓子だ」
「実はね、ホストファミリーに、カナダのお土産を買いたいって、相談したんだ。そしたら、いい店があるよって、教えてくれて」
さすがです。ちゃんと、現地に詳しいホストファミリーに、話を聞いている。
「バニラ味の、おいしそうなやつだったんだよ」
「ほうほう。なんて名前だ」
「えっと……『MOCHI』って、書いてあった。たぶん、『モチ』って呼ぶんだと思う」
ん? モチ? それも、バニラ?
家に着いてから、確かめました。パッケージには、英語で、いろいろ書いてある。「MOCHI」の文字に、「バニラクリーム」の英語表記。化学調味料や香料で、ごまかしていないことも、ちゃんと書いてある。
そして、もちろん、見ました。裏面を。
「メイド・イン・台湾」
息子よ。キミに、負けました。
■ いや、まともなものも
さすがの息子は、私の期待を、一ミリも裏切りません。
……とはいえ。名誉のために、言い添えれば。それだけでは、なかったのです。
メイプルシロップは、ホストファミリーに教わった、百パーセントカエデ樹液の、本物。ガイドブックで見つけて、ホストファミリーが、製造元にまで電話をして、手に入れたという「メイプルバター」。メイプル味の、ビスケットサンド。カナダで作られたトレーナーに、記念のキーホルダー。
……ちゃんと、まともなものも、買っていたのです。むしろ、なかなか、いい仕事をしている。
■ そして、家族へ
さて。ここからが、肝心要です。家族への、お土産は、あるのか。
まず、私には——ありません。これは、安定の、通常運転です。もとより期待もしていませんし、何もいらないと、言ってありました。キーホルダーをもらっても、正直、困る。……まあ、あのサングラスに金をつぎ込むくらいなら、とは、微かに思いましたが。
問題は、妻と娘です。
娘には、おしゃれな、名前の頭文字をあしらった、カナダらしいキーホルダー。そして、天然石のブレスレット。どちらも、なかなか、ちゃんと選んだものです。
そして、妻には。
「いや、母さんは、お菓子とメイプルシロップがあれば、十分でしょ?」
いろいろなお菓子は、母のために買ったようです。それは、いいのですが……普段、使いもしないくせに、「キーホルダーが欲しかった」と、すね始める妻。
しかし、思うのです。
これがもし、息子が働いて、初任給で買ったものだ、という話なら。あなたの、そのすね方も、分からなくはない。ですが——彼のお土産代も、なんなら、ホームステイの費用も。元をたどれば、お父さんが、一生懸命働いた、その結果、なんですけどね。
■ 偉大な男に、なれる
すねた母のため。息子は、あの怪しいカナダ印の帽子と、サングラスをかけて。ソファに逃げ込んだ母のもとへ、そっと、慰めに行きました。
そして、こう言ったのです。
「お母さん。このサングラス、かけたくなったら、貸すからね。いつでも、言ってよ」
……息子よ。
キミは、いつか、偉大な男に、なれるぞ。




