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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
中学時代編

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軋み

瑶季の成績は、目に見えて変わっていった。

最初は数学の定期テストで平均点が60点台後半だったのが、柊が過去問や解法を共有し始めてから、すぐに70点台後半へ。

次のテストでは80点を超え、クラスで「瑶季、急に数学できるようになったじゃん!」と話題になるほど。

英語の長文も、柊が「主旨を先に掴む」読み方を教えたおかげで、リスニングと合わせて偏差値が10近く上がった。

瑶季がテスト返却後に、興奮した様子で画像とメッセージを送ってくる。

瑶季

『柊くん!! 数学85点だった!! 初めて80超えた!!これ全部柊くんのおかげだよ!! ありがとう!! 泣きそう!!』

柊はスマホの画面を見て、胸が温かくなるのを感じた。

(…瑶季がこんなに喜んでる。なんか、すごく嬉しい)

『俺のおかげなんかじゃなくて、瑶季が頑張ったからだよ』

瑶季

『ううん!柊くんが教えてくれたからだよ!!』


そんなやり取りが続くうちに、柊の頭の中に、ふと浮かぶようになった。

「同じ高校に通う」未来。塾の帰り道、電車の中でぼんやり窓の外を見ながら想像する。

朝、同じ時間に一緒に学校へ向かう。

休み時間に教室で話す。

放課後、部活が終わった後に一緒に帰る。

文化祭や体育祭で、一緒に何かする。

そんな当たり前の日常が、瑶季と一緒にあったら…。


ある日、ファミレスでの勉強会中。

瑶季が志望校の話を振ってきた。

「柊くん、第一志望ってやっぱりあの進学校だよね? 偏差値70狙ってるって言ってたし…私なんかまだ60台前半だから、別のとこ考えてるんだけど」

柊は少し迷ってから、口を開いた。

「…俺、瑶季と同じ高校に行けたらいいなって、最近思うようになった」

瑶季は一瞬、目を丸くした。

フォークで刺したケーキを止めて、慌てて首を振る。

瑶季

「無理無理!柊くんと同じ高校とか! 私じゃ全然手届かないよ!

偏差値もまだまだだし、私の今のペースじゃ絶対無理だって…!」

でも、言葉の最後が少し弱くなる。

瑶季は俯いて、指でグラスの縁をなぞりながら、ぽつりと言った。

「…けど確かに一緒の高校通えたら、楽しそうだな…」

柊はその言葉を聞いて、喉が詰まるような感覚になった。

楽しそうって言葉が、こんなに重く響くなんて思わなかった。

「うん…俺もそう思う」

とだけ返して、2人は少しの間、黙って勉強を再開した。

でも、空気が少しだけ甘く、柔らかくなった気がした。


一方で、柊の内側は少しずつ軋み始めていた。

勉強は順調だ。

模試ではA判定も出始め、志望校の合格可能性は80%を超える回も出てきた。

でも、その代償は大きかった。

これまでずっとやりこんでいたゲームは完全に封印。

コントローラーを触るだけで罪悪感が湧くようになり、結局棚の奥にしまった。

バレーは観戦だけ。

テレビで試合を見ながら「俺もやりたい…」と身体が疼くのに、自分がコートに立つ機会はない。

部活引退後の体は、運動不足で少しずつ重くなっていく。

50m走6.5秒の脚が、最近は階段を上るだけで息が上がる。

ストレスは三重に重なっていた。

本当に合格できるのかという受験の不安。

好きだったゲームができない娯楽不足。

毎日の部活は無くなり、体育の授業がけでは物足りず運動不足。


瑶季との時間は、確かに最大の癒しだった。

LINEが来るだけで肩の力が抜ける。

勉強会で瑶季が笑う顔を見ると、胸のモヤモヤが少し溶ける。

でも、それでも埋めきれない部分がある。

夜中、勉強を終えて布団に入っても、頭が回り続ける。

「俺、こんなんで本当に大丈夫なのか…」

「瑶季と同じ高校なんて、夢見すぎだろ……だいたい、瑶季も本当に『一緒の高校行けたら楽しそう』なんて思ってるとは限らない……そもそも普段だって、俺なんかと一緒にいて本当に楽しいのか…?」


ある夜、瑶季から来たLINE。

瑶季

『今日の模試、柊くんどうだった? 私、数学また80超えたよ! また柊くんのおかげ!!』

瑶季からのメッセージを見た瞬間、気持ちが軽くなり、柊の脳内を巡り続ける不安や恐れは影を潜める。だが次のメッセージが柊を現実に引き戻した。

『でもなんか、柊くん最近疲れてない? 無理しないでね…?』

柊はスマホを握ったまま、しばらく動けなかった。

疲れてるのは、バレてるんだ。

でも、それを認めたら、全部崩れそうで怖い。

『うん…ちょっと疲れてるかも。

でも瑶季の成績上がってるの見ると、がんばれるよ。ありがとう』

送信してから、柊は深く息を吐いた。

瑶季のためにも頑張りたい、という気持ちは本物だ。

同じ高校の夢も、本気で欲しい。


でも、心のどこかで、何かが少しずつ削られ始めている。

このままでは、近いうちに限界が来るかもしれない。

だが柊は、そんな精神の軋みに気付かないフリをするかのように、瑶季とのトーク履歴を見返すばかりだった。



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