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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
社会人編

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73/77

開放

柊は、ある週末の夕方、部屋の片付けを始めた。

部屋の棚に埃をかぶったまま置いてあったものに、ようやく手を伸ばす日が来た。


まず、海月先輩からもらったシャンパンの小瓶。

3年前の誕生日、「20歳の記念に♡」と言って渡されたもの。

中身はもう無い。

空のボトルは、ずっと棚の奥に飾られていた。

埃が積もり、ラベルが少し色褪せている。

柊はボトルを手に取り、じっと見つめた。

あの頃は、このボトルを見るたび、海月先輩の笑顔が浮かんで胸が締めつけられた。

「先輩はもういない」という現実を認めたくなくて、ただの空き瓶でも海月先輩から貰ったものだからと、捨てられなかった。

でも今は、違う。

「…もう、大丈夫だ」

柊は小さく呟いて、キッチンのゴミ箱へ。

ボトルをそっと置く。

ガラスがカチンと軽い音を立てた。

一瞬、胸がチクッとしたけど、すぐに消えた。

執着の最後の欠片が、ここで捨てられた気がした。

次に、左手首の腕時計。

4年前に海月先輩がくれたもの。

毎日ずっとつけていた。

針が動くたび、先輩の「これからも一緒にバレー頑張ろうね」という言葉が蘇っていた。

でも、今は違う。

柊はゆっくりと時計を外した。

腕に残る跡が、少し赤くなっている。

時計を手に持って、もう一度見つめる。

「ありがとう、先輩」

と心の中で呟いて、机の引き出しから小さな箱を取り出した。

元々時計が入っていた箱。

丁寧に折り畳まれた説明書と一緒に、

時計を戻す。

蓋を閉めて、引き出しの奥にしまった。

もう、つけない。

でも、捨てない。

ただ、「過去のもの」として、大切に保管する。

それでいい。


部屋が少し静かになった。

埃っぽい空気が、少しだけ軽くなった気がした。

柊はベッドに座って、深く息を吐いた。

左手首が、少し寂しい。

でも心はほんの少し、自由になった。

理央に報告しようかと思ったけど、今はまだ1人でこの瞬間を噛み締めていたかった。

シャンパンのボトルは捨てた。

腕時計は箱にしまった。

海月先輩への執着は、ようやく、静かに終わった。

これで本当に、前に進める。


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