交際
柊と理央は、ついに正式に付き合い始めた。
きっかけは、あの夜の告白だった。
理央の部屋で柊が震える声で「好きだ」と言った瞬間、理央も「私も……ずっと好きだった」と応えた。
それから数日。
2人は「友達以上恋人未満」の曖昧な距離を保ちながらも、お互いの気持ちを確認し合い「付き合おう」と言葉にした。
大学時代から数えて5年と少し。
「良い友人」として寄り添い続けた2人が、ようやく恋人になった。
付き合い始めてからの日々は、穏やかで、温かかった。
柊は仕事で、理央は大学院の研究で忙しいながらも、週末は必ずどちらかの部屋に入りびたり、
一緒にご飯を作ったり、ソファで寄り添って映画を見たり。
柊は社会人2年目で残業が増えても、理央からの「お疲れ様」のLINEを見ると
疲れがふき飛ぶ。
理央の部屋に泊まるときは、自然に抱き合って眠るようになった。
理央の髪を撫でながら、
「理央がいてくれて、ほんとに幸せだ」
と呟くと、理央は
「私もだよ。柊くんがいてくれるから、研究も頑張れる」
って、優しく返してくれる。
2人は、互いの感情が友情を超えていることを日々の小さな瞬間に感じていた。
理央が疲れて帰ってきたとき、柊が肩を揉んであげると、
理央は
「柊くんの手、あったかい……大好き」
って目を細める。
柊が仕事で落ち込んだとき、理央は
「柊くんは頑張ってるよ。私、柊くんの全部が好きだから」
って、抱きしめてくれる。
互いが、互いにとって「何より大切な存在」になっていた。
瑶季・海月・理央……
中3のあの体育祭から数えて、苦節約9年。
柊は、ようやく報われた。
瑶季との一夜は、過去を清算する儀式だったのかもしれない。
あのとき、瑶季は「好きだった」と言ってくれたけど、それは「過去の好き」でしかなかった。
でも、その一夜があったからこそ、柊は長い時を経て「もう過去に戻らない」と決意できた。
海月先輩への執着は、理央との時間が増えるたび、静かに薄れていった。
今、柊の隣にいるのは理央だ。
理央の笑顔が、柊の日常を照らす。
理央の声が、柊の心を癒す。
理央の温もりが、柊の孤独を埋める。
柊は思う。
俺はようやく、愛される側になれたのかもしれない。
まだ、嫉妬心や独占欲が完全に消えたわけではない。
それでも、理央と付き合ってからの日々は、穏やかで、幸せで、少しだけ、普通の恋だった。




