自覚・②
柊はあるとき、ふと気づいてしまった。
手持無沙汰なとき、無意識にスマホのトーク画面を何度も開いては閉じ、理央のアイコンを眺めている自分がいる。
今日も、仕事終わりに理央に「今日も残業…」と送り、すぐに返ってきた
「がんばれ〜! また話聞かせて♡」
というスタンプに、胸が温かくなる。
理央の部屋で並んで座ってYouTubeを見ているとき、理央が笑いながら「これ面白い!」と肘で軽く突いてくる。
肩が触れ合う距離。
理央の髪から漂うシャンプーの匂い。
「ん〜、疲れた〜」と理央が伸びをして、柊の肩に頭を預けてくる。
その瞬間、胸が締めつけられた。
同時に、自覚した。
「俺……理央のこと、好きになってる」
好きになりすぎている。
でなければ、こんなに頻繁に誘わない。
連休のたびに「今週末空いてる?」と自分から連絡しない。
社会人になってからの愚痴を、毎日LINEでこぼさない。
理央の部屋に泊まるのが当たり前になっていない。
理央の温もりを、こんなに忘れられない訳がない。
理央は良い友人だったはずだ。
大学1年の頃から、執着で苦しむ俺の話を聞いてくれて、プレゼントの相談に乗ってくれて、海月に拒絶された夜にヤケ酒に付き合ってくれて、いつも寄り添ってくれて、学生最後の夜に泊めてくれて、卒業式の後も、こうして頻繁に会ってくれる。
恋愛感情なんてない、ただの「味方」のはずだった。
なのに、今は違う。
理央を誘う回数が明らかに増えている。
連休の予定を理央に合わせるようになっている。
理央の部屋で過ごす時間が、俺にとっての「充電時間」になっている。
理央の笑顔、声、匂い、肩が触れ合う距離、すべてが、俺の心を占領し始めている。
いったい、いつからなのか。
……分かっている。
学生最後の日、別れ際に寂しさに任せて正面から抱きしめた瞬間。
理央が「柊くんならいっか」と受け入れて、抱きしめ返して、頭を撫でてくれたあの感触。
それが、スイッチだった。
海月先輩に抱きつかれた新歓コンパの夜と同じ。
瑶季に自傷跡を見られたときと同じ。
一瞬で、頭の中がその人で埋め尽くされた。
海月への執着が、理央によって上書きされた。
瑶季への想いが、海月によって塗り替えられたように。
今、頭の中は理央でいっぱいだ。
理央の笑顔。
理央の声。
理央の肩の感触。
理央の匂い。
理央の「柊くん、頑張って」の一言。
全部が、愛おしくて、切なくて、怖い。
でも、同時に絶望が襲ってきた。
歴史は繰り返すのか?
瑶季→海月→理央。
依存先・執着先が変わっただけで、
また同じ苦しみを繰り返すのか?
理央が他の男と笑っている想像をしただけで、胸がざわつく。
理央が「今日、誰かと会うんだ」って言ったら、吐き気がするくらい苦しくなる。
理央が「彼氏できたよ」って言ったら、俺はまた壊れるかもしれない。
大学4年間、理央は「良い友人」だった。
恋愛感情なく、純粋に支えてくれた。
それなのに、今さら恋愛に発展させるなんて、できるのか?
理央に「好きです」と言って、
「ごめん、友達としてしか見れない」
と言われたら、今度こそ立ち直れないかもしれない。
拒絶されたら、理央という最後の「安全地帯」すら失う。
それが怖い。
怖すぎて、何も言えない。
柊は、理央の部屋で一緒にいる時間が、一番幸せで、一番苦しい時間になった。
理央が隣にいると、心が落ち着く。
でも、理央が隣にいるからこそ、「理央を失いたくない」という恐怖が強くなる。
「好きになりすぎる」性質は、また繰り返されている。
今度は、「友達」だったはずの相手にまで執着してしまっている。
柊は思う。
俺は、また同じ地獄を歩き始めてしまったのか。
社会人になってからの毎日は、仕事のプレッシャーと、理央への想いの狭間で揺れ動く。
理央に会うたび、「好きだ」と言いそうになる。
でも、言えない。
言ったら、壊れるかもしれない。
この想いは、いつか爆発するのか。
それとも、静かに、柊を蝕み続けるのか。




