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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
社会人編

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社会人

柊は、社会人になってから、以前より頻繁に理央と連絡を取るようになった。

新卒1年目。

研修、配属、OJT、残業、飲み会、新人歓迎会……

すべてが初めてで、毎日が気疲れの連続だった。

職場の人たちは優しいけど、

「柊くん、仕事早いね」

「頼りになる」

と言われても、

心の中では「俺なんか……」という声が消えない。

大学時代はまだ「学生」という逃げ道があったけど、

社会人になると、「失敗=俺の価値の否定」という恐怖が常に付きまとう。

そんなとき、唯一の「安全地帯」が理央だった。


卒業間際の最後の夜、理央の部屋で寄り添って寝たこと。

朝のバックハグ。別れ際の正面からの抱擁。

「充電できた?」という理央の笑顔。

あの温もりが、社会人になってからの柊の心の支えになっていた。

寂しさが強くなると、理央の部屋に行きたくなる。

理央の声が聞きたくなる。

理央の隣にいたくなる。

連絡頻度は、社会人になる前より明らかに増えた。

平日夜の愚痴LINEはほぼ毎日。

連休や長期休みには、「今週末空いてる?」と柊から誘うようになった。

初任給が出たタイミングで、「泊めてもらったお礼」

という名目で、学生時代はなかなか手の出せなかった少し良い店に誘ってみた。

理央は「え、いいの? 奢り?」と笑いながら、

喜んで来てくれた。

食事の後、理央の部屋で晩酌してそのまま泊まるというのも、いつの間にか恒例になってきた。

……付き合っているわけでもないのに。

いつしか柊と理央は、柊が社会人になってからの方が会う頻度が高くなっているのではないかという程になっていた。


週末の夜、理央の部屋で。

2人はソファに並んで座り、ビールとつまみを並べて、テレビの音を小さく流しながら話す。

柊は缶ビールを手に、

「今日も上司に怒られてさ……俺、社会人向いてないかも」

理央は笑って、

「みんな最初はそうなんだよ。柊くんは真面目すぎるだけ。もっと適当にやればいいのに」

柊は、缶を置いて、

「俺、理央に会うのが一番落ち着く。社会人になってから、毎日疲れてるけど、理央と話すと、なんか……生きてるって実感する」

理央は、少し照れくさそうに、

「柊くん……そんなこと言われたら、嬉しいけど恥ずかしいよ」

2人は、肩を寄せ合って、テレビの音を聞きながら、静かに夜を過ごした。

付き合っているわけじゃない。

でも、柊にとって、理央は「唯一の安心地帯」だった。

理央は、柊の寂しさを友達として受け止めてくれる。

理央の存在が、社会人としての孤独を埋めてくれる。

2人の関係は恋人未満。

でも、「ただの友達」という言葉では収まらない、特別なものになっていた。

柊は時々思う。

「理央がいてくれて、よかった」

でも同時に、

「俺はまた、誰かを『必要』としてしまってるのかな」

という不安も、胸の奥に残っている。


社会人1年目。

新しい職場、新しい人間関係、理央という「居場所」。

柊はこの新しい日常の中で、少しずつ自分を取り戻していた。


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