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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
大学時代編

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理央との1日

翌朝、2人は同じベッドで目を覚ました。

柊は理央の隣で目を覚ました。同じベッドで眠ったということなんて全く気にも留めなかった。

理央も同じベッドで、髪を少し乱して目を擦りながら起き上がり、「ん……おはよ、柊くん」と眠そうに笑った。

2人の間には何も起きなかった。

本当に、何も。

それが当然だと互いに思っていた。


3月末とはいえ、朝はまだ冷える。

理央が「ヒーター付けるね」と起き上がってスイッチを入れる。

その瞬間、柊は理央の背中にそっと抱きついた。

バックハグ。理央は少し驚いて、

「……どうしたの?」

柊は、理央の背中に顔を埋めて、

「寒いから……こうしてるのが一番暖かいから……

下心とか無いから許してくれ……」

と言い訳した。

もちろん、寒いから、暖かいから、というのも嘘ではない。

でも、それ以上に、寂しさに呑まれかけていた。

学生生活が終わりに近づくにつれて、寂しさが強くなっていた。

明日、4月1日からは社会人スタート。

もしかしたら、大学に戻ってくることは二度とないかもしれない。

そうなれば、院進する理央に会うこともなくなるかもしれない。

そんな寂しさと寒さが合わさり、気付けば理央に抱きついていた。

理央は、柊の腕を優しく撫でて、

「……まぁ、柊くんならいっか」

特に突き放したりもしない。

そのまま、2人はしばらく抱き合ったまま、

朝の静けさを味わった。


その後はずっと理央と一緒に過ごしていた。

朝は近くの喫茶店にモーニングに行き、部屋に戻ってから隣同士肩が触れ合うくらいの距離で座ってテレビでYouTubeを見たりゲームをしたり。

研究続きで疲労が溜まっている理央にマッサージを頼まれて、肩を揉む。

ついでに足や腕、手、腰までと頼まれるうちに、気づけば全身マッサージしていた。

肩を揉んでるとき、理央が

「もうちょっと下……」

って言うから、肩の前の方から胸の方まで下りていく。

服の上からブラ紐に触れてしまったり、際どいところまで行ったりしたけど、そういう雰囲気にはならず、ただの「友達同士のスキンシップ」だった。

理央は

「ん〜気持ちいい……柊くん、手つき上手いね」

ってリラックスした声で言うだけ。

柊も「そうか……?」って照れながら続ける。

2人の間には、ただの安心感しかなかった。


それでも、理央の部屋で一緒に過ごす中で、柊はふと気づいてしまった。

理央がキッチンでコーヒーを淹れてくれている間、ソファに座ってテレビの音を小さく流しながら、隣にいる理央の存在を、ぼんやりと感じていた。

肩が触れ合う距離。

時々、理央が笑って「これ面白いね」とリモコンを操作する仕草。

マッサージを頼まれて肩を揉むときの、

「そこそこ! 気持ちいい〜」という声。

朝から一緒にモーニングに行って、帰ってきてからもゲームしたりYouTubeを見たり、ただ隣にいるだけで、こんなに安心できる。


(付き合うって、こういう感じなのかな……)


頭に浮かんだのは、そんな言葉だった。

日常の小さな瞬間を共有する。

相手の存在が、空気を優しく変える。

特別なイベントじゃなくても、ただ一緒にいるだけで満たされる。

そんな「普通の恋」が、柊の胸に、淡く浮かんだ。

でも、次の瞬間、

「こういうことを、海月さんとしてみたかったな……」

という思いが、鋭く刺さった。

海月先輩の笑顔、腕時計の温もり、

練習後の「柊くん、今日もすごかったよ〜♡」という声。

すべてが、頭の中で重なる。

柊は、自分を嘲るように小さく息を吐いた。

「まだ……忘れられてないのか、俺……」


理央がシャワーから出てきたとき、髪をタオルで拭きながら、

「柊くんもシャワーいいよ〜。汗かいたままだと気持ち悪いよ?

なんなら一緒に入っちゃう?(笑)」

とふざけ半分の笑顔で言われた。

柊は、ありがたいと思いながらも、

「おいおい、何言ってんだ……流石にまずいだろ……」

と断った。

理央は「そう?一緒には冗談だけど、シャワーくらいならいいのに」と笑ったけど、

柊は「いや、本当にいいよ……」と首を振った。


17時頃。

「明日からの準備もあるし、そろそろ帰るよ」

「私も大学行くから、一緒に出よ」

と荷物をまとめ始めた。

2人が玄関に向かおうとした瞬間、柊の胸に、突然、強い寂しさが押し寄せた。


「もうこれで、会うことが無くなってしまうかもしれない」


学生生活が終わる。

明日から社会人。

理央は大学院に進むけど、会う頻度も減るかもしれない。

いや、もしかしたら、もう会えなくなるかもしれない。

そんな思いが、一気に溢れた。

身体が、無意識に動いた。

柊は理央を正面から抱きしめた。バックハグじゃなく、今度は真正面から。

強く、でも優しく。

理央は一瞬驚いた様子で固まったが、すぐに両腕を回して、何も言わず抱きしめ返してくれた。

理央の手が、柊の背中を優しく撫でる。頭を撫でてくれる。


2人は、時間など気にせず、柊の気が済むまで、そのまま抱き合った。

柊の胸に、大学4年間の思い出が、次々と蘇る。

理央が海月先輩のことを相談に乗ってくれた日々。

ヤケ酒に付き合ってくれた夜。

自分の授業や部活を犠牲にしてまで寄り添ってくれた1週間。

一緒に旅行に行った箱根の温泉街。

「柊くんは一人じゃないよ」って言ってくれた言葉。

全部、全部、理央がいてくれたから、ここまで来れた。

「……理央、ありがとう」

理央の肩に顔を埋めて呟いた。

「ふふ……いつでも来なよ。私、まだここにいるから」

って、優しく頭を撫でてくれた。


10秒にも満たないくらい。

でも柊には、とても長い時間のように感じられた。

やがて、柊はゆっくりと体を離した。

理央は

「充電できた?これで社会人頑張れそう?」

って笑顔で聞いた。

柊は

「うん……当分は頑張れそう……ありがとう、理央」

と答えた。

理央は

「またしたかったら、良いよ……」

って、照れくさそうに笑った。

2人は、そのまま玄関まで歩いて、一緒にアパートを出た。

夕暮れの街を並んで歩きながら、

「明日から社会人だね……頑張って。何かあったら、いつでも連絡してくれていいからね」

って理央が言った。

「……うん。理央も、大学院頑張って」

って返した。

駅で別れて、柊は一人で家に向かった。


左手首の腕時計が、静かに時を刻んでいる。

海月先輩のプレゼント。

まだ、外せない。

でも、理央という友達がいる今、柊は少しだけ、

「明日から、頑張れるかも」

と思えた。


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