突然の連絡
月日は残酷なまでにあっという間に流れた。
8月末のある蒸し暑い夜、柊じゃ実家に戻っていた。
大学4年の夏休みも中盤に差し掛かり、合宿や卒論の疲れが溜まっていたため、久しぶりに実家でゆっくりしようと帰省していた。
部活もオフの日で、夕食後、部屋でスマホをつつきながらぼんやりと天井を見上げていた。
時計は23時を少し回ったところ。
そろそろ寝ようかとベッドに横になった瞬間、スマホが突然振動した。
LINEの通話着信。
相手の名前を見て、柊は息が止まった。
━━━ 瑶季 ━━━
数年ぶり。
高校時代のあの日から、連絡なんて全く取っていない。
最後に直接会ったのは、高校1年生のときの定期演奏会のとき。
中3の冬から海月に出会うまで3年半、依存して、好きで、執着し続けていた初恋の相手。
でも、その執着は何年も前に消えていた。
海月先輩に上書きされ、その後も新しい日常に埋もれ、瑶季の記憶は「大切だった過去の友人」程度に収まっていた。
なのに、今さらどうして?
なんで今になって?
混乱しながらも、柊は通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
「あ、もしもしぃ?柊くん久しぶり~!」
数年ぶりに聞いた瑶季の声は、明らかに酔っぱらっていた。
少し舌が回っていない感じで、語尾が伸びている。
柊はベッドに座り直して、
「瑶季…?どうしたの、急に…」
瑶季は笑いながら、
「さっきまでね、地元の友達と飲んでて、もう解散したんだけど……
なんか、柊くんのこと思い出して連絡しちゃった~!」
柊は戸惑いながら、
「思い出してって……飲みすぎなんじゃないか」
「え~?全然大丈夫だよ~。
ねね、今お店から歩いて帰ってる途中なんだけど、歩き疲れたし、迎えにきてよ~。
車で送ってほしいな~」
柊は言葉に詰まった。
車はある。
でも、数年ぶりの連絡がこれか…しかも酔っぱらっている。
「瑶季、大丈夫か……友達と別れたばっかりならタクシー呼んだ方が…」
「えー、タクシー高いじゃん!柊くん、家近いでしょ?お願い~、来てよぉ」
柊はため息をつきながらも、
「……分かったよ。どこにいるの?」
瑶季は位置情報を送ってきた。
柊は「10分くらいで着く。待ってて」と伝えて通話を切った。
車に乗り込みながら、柊は自分の胸に手を当てた。
心臓の鼓動が速くなる。
かつて好きすぎて、嫉妬と独占欲に狂った相手。嫌われた、忘れられたと思っていたのに、突然連絡してきた。
瑶季への思いは、もう無いはずだった。
海月先輩に上書きされて、もう過去の友人になっていたはずだった。
なのに、忘れていたはずの執着が、あの頃の思いが、胸の内で叫びだした。




