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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
大学時代編

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4年生

柊と理央はとうとう大学4年生になった。

嫉妬心や独占欲は、確かに薄れてきた。

海月先輩の「彼氏いるから」という言葉を聞いた日から1年以上が経ち、あの日の吐き気や殺意に近い感情は、日々の生活の中で少しずつ摩耗していった。

海月先輩の彼氏を想像して殺意を抱く夜も、ほとんどなくなった。


でも、執着だけは、どうしても薄まらない。

海月先輩はもう、キャンパスにいない。

大学院を修了して就職し、遠くの街で新しい生活を始めている。

部活に顔を出すこともなくなり、学科の廊下でばったり会うこともない。

LINEのやり取りは、最後の誕生日メッセージ以降、完全に途絶えた。

いないからこそ、求めてしまう。

柊の日常は、海月の幻影で満ちていた。

朝、目が覚めると、2年前に貰った腕時計が目に入る。

海月先輩がくれたもの。

針が動くたび、「先輩、今何してるかな……」という思いが浮かぶ。

今も、外せない。

外したら、海月先輩との記憶を失ってしまう気がして。

授業中、教授の声が遠く聞こえる間、ノートを取る手が止まって、海月先輩の笑顔が浮かぶ。

「柊くん、ナイス〜♡」という声が、耳元で響く。

練習中、コートに立つと、海月先輩がコートの端から見ているような気がして、

いつもより跳ぶ。スパイクを決めた瞬間、「見ててくれたかな」と、無意識に思う。

いないはずなのに、どこにでもいる。

自室に戻ると、棚に置かれた空のシャンパンボトル。

埃をかぶり始めているのに、見るたび、「20歳の記念に♡」という海月の声が蘇る。

捨てられない。

捨てたら、海月先輩の「20歳おめでとう♡」という笑顔が、完全に消えてしまう気がして。

夜、ベッドに横になると、新歓コンパのハグの温もり、プチデートのカフェの笑顔、最後の「ありがとう、ごめんね」が、頭の中でループする。

忘れたいと思う。

忘れれば、楽になれる。

でも、忘れたくないという想いが、それを許さない。

忘れたら、海月先輩がくれた温もりも、笑顔も、全部なくなってしまう。

また、あの虚無に戻ってしまう。


就職活動が本格化し、就活セミナーやESの締め切りが迫る中、柊は毎日のように海月の幻影を探していた。

就活の面接で「私の強みは粘り強さです」と言いながら、心の中で

「この粘り強さが、執着を生んでるんだ」と自嘲する。

理央は、そんな柊を心配し続けていた。

ある日、練習後に理央が

「柊くん、最近また顔色悪いよ。海月先輩のこと、まだ引きずってる?」

って聞いてきた。

柊は

「……うん。忘れたいのに、忘れられない。忘れたくない」

って答えた。理央はため息をついて、

「瑶季さんのときと同じ葛藤だね。

『忘れたいけど忘れたくない』って。

でもさ、今度は海月先輩が本当に『いない』んだよ。

物理的に、会えない。

だから、少しずつ、『いないことを受け入れる』しかない」

って言った。

柊は

「……受け入れるって、どうすればいい?」

って聞いた。

理央は

「わからない。私も経験ないから、答えは出せない。

でも、『いない』って事実を、毎日少しずつ認めてく。

腕時計も、シャンパンボトルも、いつか捨てられる日が来るかもしれない。

無理に今じゃなくていい。柊くんのペースでいいよ。私、隣にいるから」

柊は

「……ありがとう、理央」

って、初めて少し笑った。

でも、心の奥では、まだ海月の幻影がいる。

いないからこそ、求めてしまう。

この葛藤が、大学最後の1年を、静かに苦しみの色に染めていく。

このままでは、大学4年間も、「海月への執着の4年間」になるのか。

そんな恐れが、柊を抱き続けていた。

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