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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
大学時代編

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別れ

理央の1週間の寄り添いのおかげで、柊の症状は幾分かマシになってきた。

吐き気は無くなり、頭痛や胸痛の頻度も重さも軽くなった。

食事の味も再び感じられるようになった。

それでも、執着を完全に手放すことはできなかった。

そのまま、ズルズルと月日は流れていった。


海月への誕生日メッセージは、結局送ってしまった。3月3日、深夜0時を回った頃。

柊はスマホを握りしめながら、何度も下書きを消しては書き直した。

「送っていいのか」

「断られたのに、また気持ちを押し付けるのは迷惑じゃないか」

そんな葛藤が頭をぐるぐる回ったけど、結局、指が勝手に動いた。


『海月さん、お誕生日おめでとうございます。

大学院2年目も、変わらず頑張ってる姿、遠くから見ててすごいなって思ってます。

いつも優しくしてくれてありがとうございました。

これからも、笑顔でいてください。社会人も頑張ってください。

少しだけど、ギフト送りました。

お祝いにどうぞ。』

送信ボタンを押した瞬間、胸が締めつけられた。

送ったギフトは、約6000円分の日本酒セット。


既読がつくまで、スマホを握った手が震え続けた。

海月からの返信は、翌朝来た。

海月

『柊くん! ありがとう〜!!

メッセージ読んで、朝から嬉しくなっちゃった♡

お酒もありがとう! これは絶対大事に飲むね〜

柊くんも、大学4年頑張って!

また機会あったら話そうね~!』


そして、後日の柊の誕生日にはLINEギフトで返信が来た。

少し高めのチョコレート詰め合わせ(5000円くらい)。

カードには

「柊くん、ありがとう♡そしておめでとう!」

と書いてあった。

柊は画面を見つめたまま、

涙がぽろりと落ちた。

嬉しくて、苦しくて、「ありがとう」の一言が、こんなに重いなんて。


それから月日は流れ、3月25日。海月の大学院修了の日。

キャンパスは桜が満開。

大学院の修了式は午前中で、

その日の午後、4年生たちと合わせてバレー部の部室で卒部式が開かれた。

部員全員が集まり、海月がとして

「みんな、ほんとにありがとう!

社会人なっても、たまに遊びに来るからね♡」

って笑顔で言った。

みんなが拍手して、花束を渡して、写真を撮って、最後に円陣を組んだ。

柊は後ろの方に立って、海月の姿を遠くから見つめていた。

左手首の腕時計が、静かに時を刻んでいる。

2年前に貰ったもの。今も毎日つけている。


会が終わって、みんなが散らばり始めた頃。

柊は勇気を振り絞って、海月の近くに近づいた。

「…海月さん」

海月が振り返って、

「柊くん! どうしたの〜?」

って、いつもの笑顔で言った。

柊は

「……最後に、話したくて」って言った。声が震えていた。

海月は

「うん、いいよ。ちょっと外で話そっか」

って、部室の外のベンチに連れて行ってくれた。

桜の木の下、2人で並んで座った。

柊は深呼吸して、

「海月さん、大学院修了おめでとうございます。これからも……頑張ってください」

って言った。

海月は

「ありがとう、柊くん。柊くんも、大学とかいろいろ頑張ってね。バレーも、勉強も、ほんとにすごいよ」

って笑った。

柊は左手首の腕時計を触りながら、

「……この時計、まだつけてます。先輩がくれたものだから……」

って呟いた。

海月は少し驚いた顔をして、

「まだつけててくれたんだ……似合ってるよ、柊くん」

って言った。

柊は

「……先輩、俺のこと、どう思ってましたか?」って、初めてストレートに聞いた。

海月は少し考えて、

「柊くんは、ほんとに優しくて、真面目で、バレーも頑張ってて、可愛い後輩だと思ってたよ。

……ごめんね、もっと早く気づいてあげられなくて」

って、優しく言った。

柊は

「……いいんです。俺が勝手に好きになって、勝手に苦しんでただけだから」

って、苦笑した。

海月は

「柊くんは、きっと幸せになれるよ。こんなに真っ直ぐな気持ち持ってるんだから」

って、最後に頭を撫でてくれた。

「じゃあね、柊くん。またいつか、会おうね」

海月は立ち上がって、手を振って去っていった。

柊はベンチに座ったまま、動けなかった。

桜の花びらが、風に舞って落ちてくる。


海月先輩は、もういない。

大学院を修了して、新しい道を歩き始めた。

家に帰ると、柊は自室の机の上に置いてあった、海月先輩からもらったシャンパンのボトルを見つめた。

1年前に、20歳の誕生日にくれたもの。理央と一緒に飲んだあと、空になったまま置いてある。

捨てられなかった。

腕時計を見つめた。

針が、静かに動いている。

外せない。

着けたままだと、前には進めないかもしれない。

でも、海月先輩の温もりがまだ残っている気がする。

この温もりを、手放したくない。


もう、会えない。

大学院を修了した海月先輩は、

新しい職場、新しい生活へ進む。

俺は、ここに残される。

「さよなら、海月さん」

涙が、ぽろりと落ちた。

執着の出口は、まだ見えない。

海月先輩の記憶は、胸の奥で、静かに疼き続けている。

柊の恋はまた、終わらないまま続いていく。


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