寄り添い
苦しみ続け、日に日に弱っていく柊を見かねた理央は、ついに決断した。
ある金曜の練習後、理央は柊を体育館の隅に引っ張って、
「柊くん、今週から1週間、講義も部活も全部休みな」
と、ほとんど命令口調で言った。
柊は
「……え?」
とぼんやりした顔で聞き返した。
理央は
「いいから。私も先生に『体調不良で休みます』って連絡した。
柊くんも今すぐ先生に連絡して、休み取って。
このままじゃ、柊くん本当に壊れちゃうよ」
って、強い目で言った
。柊は抵抗する気力もなく、
「……わかった」
とだけ返して、顧問に連絡した。
理央は
「よし。じゃあ今から私の部屋においで。1週間、ずっと一緒にいるから」
って、手を引いて連れ出した。
狭いけど、理央らしい温かさのある部屋。
ベッドの上にクッションがたくさん積んであって、棚にはマンガとスナック菓子が並んでる。
柊は部屋に入って、
「……付き合ってもない男を簡単に部屋に上げるなよ」
と、軽口を叩いた。
理央は
「バカ。今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。ほら、座って」
って、ベッドの端に座らせた。
その1週間、理央は柊を外に連れ出した。
月曜、近くの公園で散歩。
何も話さず、ただベンチに座って空を見ていた。
柊は
「……何も考えられない」
って呟いた。
理央は
「それでいいよ。今は考えなくていい」って言った。
特に何をするわけでもなく、何を話すわけでもないけど、今の柊にはその時間が心地よかった。
火曜、映画館。
理央が選んだコメディ映画。
柊は最初ぼんやりしていたけど、笑い声が聞こえるたび、少しずつ口元が緩んだ。
映画終わりに理央が「面白かった?」
って聞くと、
「……うん。少し」
って答えた。
水曜、遠出。
電車で1時間くらいの海辺の町へ。
春の海は冷たくて、波の音が響く。
理央が
「柊くん、叫んでみたら?海に向かって、全部吐き出しな」
って言って、
柊は
「……海月先輩!!」
って叫んだ。
声が風に掻き消されて、少しだけ、胸が軽くなった。
木曜、理央の部屋で何もしない日。
2人でベッドに並んで横になって、スマホで動画を見たり、コンビニのアイス食べたり、ただ寄り添って過ごした。
理央は
「今日は何もしなくていい日」
って言って、柊の頭を自分の肩に預けさせた。
柊は
「……理央、ありがとう」
って、初めて素直に言えた。
金曜、また外へ。
水族館に行って、ペンギンを見ながら
「柊くん、ペンギンみたいに泳いでみたら?」
って理央がからかう。
柊は
「……無理」
って笑った。
笑顔が、少し自然に戻ってきた。
土曜、最後の日。
理央の部屋で、2人でご飯を作った。
簡単なパスタとサラダ。
柊は久しぶりに、
「味……わかるかも」
って呟いた。
理央は
「よかった。少しずつ戻ってきたね」
って笑った。
1週間で、柊の執着はまだ消えていない。
海月先輩の笑顔が頭に浮かぶし、嫉妬の疼きも残っている。
でも、吐き気はしなくなり、頭痛と胸痛は軽くなった。
不眠も、少しずつ解消されてきた。
食事の味が、少しずつ戻り始めている。
理央は
「これで終わりじゃないよ。これから毎日、少しずつね。柊くんは一人じゃないから」
って言った。
柊は
「……うん」
って頷いた。
左手首の腕時計が、静かに時を刻んでいる。
海月先輩のプレゼント。まだ、外せない。
でも、理央という友達がいる今、柊は少しだけ、
「前に進めるかも」
と思えた。
この1週間が、柊にとっての小さな転機になった。




