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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
大学時代編

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執着・②

大学3年生になった柊と理央、海月は大学院2年生。

海月の「彼氏いるから」という言葉を聞いたあの日から、柊の日常は地獄と化した。

吐き気。

殺意に近い嫉妬。

独占欲が胸を締めつける痛み。

頭痛が毎日続き、胸が締めつけられるような息苦しさ。

夜は眠れず、眠れても悪夢を見て飛び起きる。

食欲は無くなり、食べ物や飲み物の味が分からない。

水を飲んでも、ただの液体でしか感じない。

体重は減り、鏡に映る自分の顔がやつれている。

左手首の腕時計だけが、まだ海月の存在を思い出させる。

でも、今はそれすら重い。


柊は海月への執着を打ち消そうとするかのように、バレー部の練習に打ち込んだ。

朝練から自主トレ、授業の合間もジムで筋トレ、夜遅くまでコートに残る。

同期や後輩が

「柊、今日はもう休めよ。明らかにバテバテじゃん」

って心配しても、

「まだいける」

って無理に笑って続ける。

汗を流して、体を限界まで動かしているときだけ、頭の中のノイズが少し静まる。

でも、練習が終わると、また海月の顔が浮かぶ。

「彼氏いるから」

その言葉が、ループする。


海月が部活に顔を出したり、学科の廊下で偶然会ったりしても、以前のように会話ができなくなっていた。

海月が「柊くん、久しぶり〜! 元気?」って笑顔で声をかけてきても、

柊は

「……はい」

って小さく頷くだけ。

目が合わせられない。

話しかけられても、

「先輩も……お元気ですか」

とだけ返して、すぐに逃げるように去ってしまう。

海月は少し困惑した顔をするけど、

「忙しいのかな〜」

って笑って流す。

柊は、

彼女の笑顔を見るだけで胸が痛くて、

逃げるしかなかった。

そんな柊を、理央は心配そうに見守っていた。


ある日の練習後、理央は柊を捕まえて、

「柊くん、ちょっと話そう」って体育館の隅に連れて行った。


「……最近、ヤバいよ。顔色悪いし、練習も無理してるみたいだし……

食べてる? ちゃんと寝てる?」

柊は

「……大丈夫」って俯いた。

理央はため息をついて、

「嘘。海月先輩の件から、ずっとこうじゃん。

吐き気がしたり、眠れなかったり、食事の味が分からないって言ってたよね。

柊くん、もう限界でしょ」

柊は黙っていた。

理央は優しく、でもはっきり言った。

「海月先輩に彼氏いるって言われて、柊くんは『諦められた』って思ったけど、実際は諦められてない。

むしろ、『取られた』って気持ちが強くなって、嫉妬と独占欲が爆発してる。

それで、自分を壊してるんだよ」

柊の目が潤む。

理央は

「柊くんは、『好きになりすぎる』って言ってたけど、

それは『失うのが怖い』からだよね。瑶季さんのときも、海月先輩のときも、

『いなくなったら俺はダメになる』って思ってる。

でも、柊くんは一人でも生きていけるよ。

バレーもあるし、友達だっているし……私だっているじゃん。

海月先輩がいなくても、柊くんは柊くんだよ」

柊は

「……でも、理央……俺、幸せになれない気がする」

って、掠れた声で言った。

理央は

「なれるよ。今はまだ、苦しいだけ。

でも、少しずつ、『俺は俺で大丈夫』って思えるようになる。

私、信じてるから。一緒に、少しずつ進もうよ」

柊は

「……ありがとう」

って、初めて少し笑った。



それでも、簡単に執着は断ち切れなかった。

本心では、断ち切りたいと思っている。辛いだけだから。

嫉妬が胸を抉り、独占欲が息を詰まらせ、頭痛と胸痛が毎日のように襲ってくる。

不眠で夜が長く、味のない食事と吐き気が続き、体重はまた落ちて、鏡に映る自分の顔が他人みたいだ。

「もう終わりにしたい」

そう何度も思うのに、心が許さない。


瑶季のときとは、状況が違った。

大学入学直前に瑶季を忘れようとしたときは、そもそも瑶季と会うこと自体が数年レベルで無かった。

物理的な距離が、心理的な距離を生んでくれた。

トーク履歴を消し、写真を削除し、記憶の引き金を一つずつ切っていけば、無理矢理にでも忘れられた。

数週間は地獄だったけど、海月という新しい「執着先」が現れて、上書きされた。

でも今回は違う。

海月はまだ、すぐ近くにいる。

大学院2年生。同じキャンパス、同じ学部棟。

講義室の廊下でばったり会う。研究室の前を通るとき、海月の声が聞こえることがある。

部活に顔を出した日、コートの端から

「みんな〜頑張ってるね♡」と手を振ってくる。

その笑顔を見るたび、胸が締めつけられる。

「忘れたい」と思っても、忘れるための「距離」が、物理的に存在しない。


体育館の入り口で、海月先輩の姿を見かけた瞬間。

「柊くん、今日も頑張ってるね〜♡」と笑顔で手を振ってくれる。

その一瞬で、胸が熱くなり、同時に苦しくなる。

「先輩……」と声をかけたくなる衝動を、必死に抑える。

抑えきれなくて、軽く会釈するだけ。

でも、それだけで1日が台無しになる。

海月先輩の笑顔が頭から離れなくなり、夜中に「先輩の彼氏って、どんな人なんだろう……」と想像しては、嫉妬で息が苦しくなる。


忘れようとしても、忘れられない。

会う機会がゼロじゃないから、記憶は新しく上書きされ続ける。

海月先輩がいる世界にいる限り、柊の心は、海月先輩に囚われたまま。

理央は、そんな柊を心配そうに見守っていた。


練習後の部室で、

理央がストレッチをしながら、

「柊くん、最近また……海月先輩のこと考えてたでしょ。顔に出てるよ」

柊は、タオルで汗を拭きながら、

「……バレてるか」

理央はため息をついて、

「バレバレだよ。海月先輩が来ると、急に目がキラキラするけど、話しかけられないでしょ?

柊くん、まだ諦めきれてないよね」

柊は、壁にもたれかかって、

「……うん。忘れようとしてるのに、会うたびに思い出してしまう。忘れられないんだ」

理央は、少し考えて、

「柊くん……無理に忘れようとしなくてもいいんじゃない?

海月先輩のこと、大事な人だったんだよね。それなら、『大切な思い出』として残しておいて、少しずつ、新しいことに目を向ける……

それでいいんだよ。私、そばにいるから。いつでも、話聞くよ」

柊は、理央の言葉に、胸が少し軽くなった気がした。

「…ありがとう、理央。俺……頑張ってみるよ」


でも、心の中では「無理だ」と叫んでいる。

海月先輩が近くにいる限り、この地獄は終わらない。

忘れたいのに忘れられない。諦めたいのに諦められない。

柊は、毎日のように、海月の笑顔を探してしまう。


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