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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
大学時代編

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ヤケ酒

柊は寮の自室に着くなり、震える指でLINEを開いた。

海月先輩との別れの瞬間が、まだ頭の中でループしている。

「彼氏いるから」

その一言が、胸に突き刺さった棘のように抜けない。

理央のトーク画面に、短く打った。

『理央、今から話聞いてもらえる?

海月先輩に……告白した

断られた』

理央からの返信は、すぐに来た。

理央

『え……マジで!?

今どこ?良かったら……うち来なよ』


理央のアパートは大学から自転車で10分くらい。

柊はシャンパンの紙袋を持って、夜の街を自転車で走った。

左手首の腕時計が、街灯に反射して光る。

去年、海月先輩がくれたもの。

今は、重くて、痛い。


理央のアパートに着くと、ドアが少し開いて、

理央が顔を出した。

「柊くん……早く入りな。

……顔、めっちゃ腫れてるよ。大丈夫?」

って、部屋に招き入れた。

ワンルームの小さな部屋だけど、理央らしい可愛い小物と観葉植物が散らばっていて、

どこか温かみのある空間だった。

理央は

「座って。なんか飲む? お茶? コーラ?」

って聞いてきたけど、柊は紙袋をテーブルに置いて、ソファに崩れるように座った。

理央は向かいに座って、

「今日、海月さんとどんな感じだったのか……話せる?

辛かったら、無理に話さなくてもいいから……」

って、優しく聞いた。

柊は左手首の腕時計を無意識に触りながら、声を絞り出すように話し始めた。

「……カフェで、プレゼント渡した。手紙と、タンブラー。

先輩、喜んでくれて……手紙読んで、目潤んでた気がした……

俺も、先輩からプレゼントもらった。シャンパン。『20歳の記念に』って……」

理央は黙って聞いていた。柊の声が、少しずつ震え始める。

「それで……、誘ってみたんだ。『一緒に飲んでくれませんか?1人で飲むのは寂しいし、せっかく先輩からもらったものを他の誰かに飲ませるのも嫌で……』って」

理央の目が、少し細くなる。

「けど、先輩、笑って……

『彼氏いるから2人でお酒はできない。誰か仲良い友達と飲むのに使いなよ』って」

柊の声が、途切れた。

「……それで、世界から色が抜けた。

先輩、彼氏いるんだって。

いつからか、 誰なのか……わからないけど……

俺が入り込む余地なんて、初めから無かったんだって、はっきりわかった」

涙が、ぽろりと落ちた。

柊は左手で目を覆って、

「俺……告白したんだ。別れ際に。

『初めて会ったときからずっと……海月さんのこと、好きだったんです……』って」

理央は息を飲んだ。

「先輩、驚いた顔して……

知らなかった、気づかなくてごめん、伝えてくれたありがとうって」

柊は顔を上げて、

「それだけだった。好きだよ、とか、友達として大事だよ、とか、

何も無かった。ただ、ありがとうと、ごめんね、だけ」

理央は黙って、柊の隣に移動して、肩に手を置いた。

「柊くん……よく、言えたね。勇気出したじゃん。

瑶季さんのときは、言えなくて後悔してたけど、今回はちゃんと伝えたんだよ。それって、すごいことだよ」

柊は、嗚咽を漏らしながら、

「でも……振られたよ。先輩、俺のこと後輩としか見てなかった……

俺、何も変わらない……好きになりすぎて、届かなくて……理央、俺、どうしたらいい?もう、苦しくて……」

理央は優しく背中をさすりながら、

「今は泣いていいよ。全部吐き出して。私、聞いてるから」

柊は、しばらく泣き続けた。

涙が止まると、理央がティッシュを渡してくれた。

柊は鼻をすすりながら、震える声で、

「理央……俺、このシャンパン、1人じゃ飲めない。一緒に飲んでくれ……」

「……勿体無いよ。柊くんが1人で飲むべきだよ…」

「俺1人で飲むのは……耐えられない……」

理央は小さく息を吐いて、

「……分かった。一緒に飲んであげるよ。それで、海月さんは忘れちゃいな」

って、キッチンに向かった。

「今夜はヤケ酒かな。他のお酒やおつまみも用意しようか。

チーズとか、クラッカーとか、コンビニで買ってこようか?それとも、あるものでいい?」

柊は

「……理央が選んだものならいいよ」って、掠れた声で言った。

理央は冷蔵庫を開けて、ビールとチューハイ、冷凍のピザとかスナックを出してきて、テーブルに並べた。

シャンパンのボトルを冷蔵庫に入れて、

「これ、後で開けようか。今は、もっと気軽なやつから」

って、チューハイの缶を柊に渡した。

2人はソファに並んで座って、

缶をカチンと合わせた。

「じゃあ……ヤケ酒スタート。柊くん、今日は泣いてもいいよ。私、全部聞いてあげるから」


しばらくして、柊が絞り出すように声を出した。

「……俺、いつもこうなんだ。

瑶季のときも、海月さんのときも、好きになり過ぎて……

一度好きになると、頭の中がその人でいっぱいになって、他のことが何も見えなくなる。

嫉妬と独占欲が止まらなくて、相手が他の人と話してるだけで胸が痛くて、吐き気がするくらい苦しくて……『俺のものだ』って思っちゃう。

でも、自信がなくて、告白できなくて、逃げてるうちに相手は遠ざかって、俺はまた後悔して……

このループが、もう何年も続いてる」

理央は黙ってグラスを傾けながら聞いていた。

柊の声が、少しずつ震え始める。

「瑶季のときも、同じだった。中学3年の冬、俺壊れかけてた。

自傷して、痛みで現実から逃げて、瑶季が傷見て本気で泣いて怒ってくれた。

『どうして話してくれなかったの!?』って。

あの涙が、俺に初めて『必要とされてる』って実感くれた。

それから毎日通話して、初詣で同じ願い事して、夏祭りで手繋いで……

あの頃は、瑶季がいれば何でも乗り越えられるって思ってた。

でも、公立受験で別々の高校になって、連絡が減って、俺は毎晩スマホ握って連絡待って、

瑶季のSNS見て嫉妬して、3年半も引きずって……海月先輩に出会うまで、忘れられなかった」

柊はグラスを一気に飲み干して、続けた。

「海月先輩のときも、同じ。新歓で抱きつかれた瞬間、瑶季の記憶が全部塗り替えられた。

でも、結局また同じこと繰り返してる。

好きになりすぎて、嫉妬して、独占したくなって、でも告白できなくて……

今日、ようやく言えたのに、『彼氏いるから』って……

はっきり断られて、やっと綺麗に諦められるはずなのに……

なんで、こんなに苦しいんだろう」

涙が、ぽろぽろと落ちた。

柊は左手首の腕時計を無意識に触りながら、声を絞り出す。

「俺……幸せになれないのかな……

こんなに苦しいのなら、初めから好きになんてなりたくなかった……

もっと普通に人を好きになってみたかった……

嫉妬とか独占欲とかなく、ただ『好き』って思って、相手からも『好き』って言われて、

一緒に笑って、一緒にいられるだけで幸せで……愛されてみたかった……」


理央は黙って、柊の肩を抱き寄せた。

柊の頭を自分の肩に預けて、静かに言った。

「……柊くん、よく頑張ったよ。

ここまで全部話してくれて、ありがとう。

柊くんは、悪いことなんて何もしてない。

ただ、好きになり方が、ちょっと激しすぎるだけ。

それが悪いわけじゃないよ。

ただ、柊くん自身がそれで苦しんでるなら、少しずつ変えていけるよ」

理央は缶チューハイを飲み干して続けた。

「幸せになれないなんて、嘘だよ。柊くんは、ちゃんと愛される資格ある。

今はまだ、『相手がいないとダメ』って思ってるけど、少しずつ、『俺は俺で大丈夫』って思えるようになる。

私、信じてるから。そして、いつか、柊くんのこと、『好き』って言ってくれる人が現れるよ。

そのときまで、私が友達として、柊くんの隣にいるから」


柊は少し飲んで、「……ありがとう、理央」って言った。

涙が、またぽろぽろ落ちた。

「柊くんは、悪くないよ。好きになるのは、誰のせいでもない。瑶季さんも、海月先輩も、悪いわけじゃない。ただ、タイミングと気持ちが、合わなかっただけ」

柊は

「……けど、俺、いつもこうだ。好きになりすぎて、告白できなくて、諦められなくて、苦しんで……」

って、声を詰まらせた。

理央は

「それでも、今日、言えたじゃん。『好きだったんです』って、ちゃんと伝えた。

それ、すごいことだよ。瑶季さんのときはできなかったのに、今日はできた。

柊くん、成長してるよ」

柊は「……でも、遅かった」って呟いた。

理央は

「遅くても、言えた。それでいいんだよ。これで、柊くんは前に進める。海月先輩は、もう過去の人。

今度は、『相手がいると嬉しい』って思える恋を探そうよ。私、応援してるから」

柊は「……うん」って、涙を拭いた。


シャンパンは、後で開けた。

2人でグラスに注いで、カチンと合わせた。

理央

「海月先輩に、乾杯」

「……うん。先輩に、乾杯」

泡が弾ける音が、静かな部屋に響いた。

理央

「……今日は、辛いけど、柊くんが前に進むための夜にしよう」

柊はグラスを手に取り、理央と軽く合わせた。

シャンパンの泡が、静かに弾ける。

「……ありがとう、理央。俺……頑張ってみるよ」

理央は優しく微笑んで、

「うん。私、ずっとそばにいるから。一緒に、乗り越えよう」

2人は、静かな夜に、少しずつお酒を飲んだ。

柊は、腕時計を見下ろしながら、

海月先輩の笑顔を思い浮かべ、

涙をこらえながら、少しずつ、心の整理を始めようとした。

胸の穴は、まだ空いている。

海月先輩の笑顔が、まだ、頭から離れない。


それでも、理央がいてくれたから、一人ではなかった。

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