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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
大学時代編

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告白

今年も海月先輩の誕生日当日は「卒論の進捗報告と教授とのミーティングが入っちゃってて……ごめんね!」と断られた。

でも、「今度の日曜なら空いてるよ〜」と予定を合わせてくれた。

柊にとっては、海月先輩と2人で会うという事実だけで、もう胸が爆発しそうだった。

昨年貰った腕時計は、毎日のようにつけている。

授業中、バイト中、練習中、視界の端で針が動くたび、「先輩が選んでくれたもの」という事実が、心を温かくする。

先輩に気づいてもらえたときの「柊くん、まだつけてくれてるんだ〜嬉しい♡」という言葉が、今でも耳に残っている。


待ち合わせは大学近くのカフェ。

海月先輩は春らしいライトグレーのコートを羽織って現れた。

「柊くん、お待たせ〜! 遅れちゃった、ごめんね♡」

って笑顔で手を振って座る。

柊は

「…全然、大丈夫です」

って返すだけで精一杯。

心臓がうるさすぎて、自分の声がよく聞こえない。

1時間半くらい、大学院の研究のこと、部活の近況、くだらない話で盛り上がった。


別れ際。

柊はバッグから小さな紙袋を取り出して、

「…先輩、これ。誕生日プレゼントです。遅くなっちゃって、ごめんなさい」って渡した。

海月先輩は「え! また!? ありがとう〜!」って目を輝かせて、その場で開けてくれた。

手書きのメッセージカードと、海月のイニシャル入りのタンブラー。

「え、すごい!ありがとう!大切に使うね!」と、喜んでくれたようだった。

柊は「先輩が喜んでくれるなら、それで……」って俯いた。

すると、海月先輩が自分のバッグから小さな紙袋を取り出した。

「私からも……柊くんの誕生日、覚えてたよ。今年は20歳だよね? おめでとう♡」

柊は息が止まった。

袋を開けると、中にはシャンパン。

高級そうなラベルで、泡が優雅に描かれている。

柊は呆然として、「…先輩、これ……俺に?」

「うん。柊くん、今年20歳でしょ?

お酒飲める年齢になった記念に、良いシャンパン選んだよ!いつか誰かと開けてね!」

って笑った。

柊は言葉が出ない。

海月先輩が、俺の誕生日をまた覚えていて、しかも「20歳の記念に」って、お酒をプレゼントしてくれた。シャンパン。

でも、「いつか誰かと開けてね!」その言葉が、柊の胸に小さな棘のように刺さった。


でも、勇気を振り絞った。

「シャンパンなんて良いお酒……ありがとうございます。

あの……もし良かったら、一緒に飲んでくれませんか?

1人で飲むのは寂しいし、かと言ってせっかく海月さんから貰った物を他の誰かに飲ませるのも嫌なんで……」

海月先輩は少し驚いた顔をして、すぐに柔らかく笑った。

「ふふ、誘ってくれてありがとう。嬉しいよ、柊くん。

でも……私、彼氏いるから2人でお酒はできないや。誰か仲良い友達と飲むのに使いなよ」


その瞬間、柊の世界から色が抜けた。

音が遠くなる。カフェのBGMも、周りの話し声も、すべてが水の中のようにぼやける。

海月先輩の笑顔が、ぼやける。

胸の奥で、何かが砕ける音がした。

海月先輩の笑顔が、急に遠く感じる。

「彼氏いるから……」

頭の中で、何かが砕ける音がした。胸の奥で、黒い渦が一気に広がる。

(彼氏……いるんだ……海月先輩に、彼氏が……)

いつから?

誰?

どんな人?

想像するだけで、吐き気がする。

嫉妬が、独占欲が、絶望が、一気に爆発する。


それでも柊は、なんとか笑顔を作って、

「……そうですよね。ごめんなさい、変なこと言っちゃって……」

海月先輩は優しく、

「ううん、気にしないで!柊くんみたいな可愛い後輩に誘ってもらえて、ほんとに嬉しいよ♡

シャンパン、友達と楽しんでね」

柊は頷くことしかできなかった。


カフェを出て別れる直前、柊は立ち止まった。

柊は震える声で、絞り出すように言った。

「海月さん……ありがとうございます。はっきり断ってくれて……

お陰でいい加減綺麗に諦められそうです」

海月先輩が振り返る。笑顔が少し固まって、「え……?」と小さく漏らす。

柊は視線を落としたまま、言葉を続ける。

声は掠れて、ほとんど息のようにしか出ない。

「初めて会ったときからずっと……海月さんのこと、好きだったんです……」

空気が凍った。海月先輩の目が大きく見開かれる。

「柊くん……」と、初めて聞くような真剣な声で名前を呼ぶ。

柊は顔を上げられなかった。

ただ、

「伝えたかっただけです。迷惑かけて、ごめんなさい」

とだけ付け加えて、深く頭を下げた。

海月先輩はしばらく黙っていた。

やがて、「……ありがとう」と、静かに言った。声が少し震えていた。

「そんな風に思ってくれてたなんて、知らなかった……

気づかなくてごめんね……伝えてくれて、ありがとう……」

その言葉は優しかった。

でも、「好きだよ」「私も」

どちらでもなかった。

ただ、「ありがとう」と「ごめんね」だけ。

柊は、涙を堪えて、

「いえ……俺の方こそ、迷惑かけてごめんなさい。

これからは、後輩として……ちゃんと距離置きます」

海月先輩は、少し悲しげに微笑んで、

「柊くんは、ほんとに優しい後輩だよ。

私も、柊くんのこと大好きだよ……後輩として、ね」


もう夕暮れで、街灯が点き始めていた。

海月先輩が「じゃあ……またね、柊くん」と小さく手を振る。

柊は

「……はい」

とだけ返して、

反対方向に歩き出した。

背中越しに、海月先輩の足音が遠ざかる。

柊は振り返らなかった。


腕時計の針が、静かに進んでいる。

先輩がくれたもの。

今は、ただ重くて、痛い。

でも、外せない。

まだ海月先輩の温もりが残っているから。

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