理央との日常
柊と理央の関係は、「友達以上でも以下でもない、ただの同期」という、柊にとって初めての心地よい距離感だった。
2人で出かけるのは、月に1〜2回くらい。
練習後に「今日空いてる? なんか食べに行かない?」って理央がLINEしてくるのがきっかけになることが多かった。
柊も「いいよ、どこにする?」って返す。
デートじゃない。ただ、気楽に遊びにいくだけ。
それがわかっているから、柊は緊張せずにいられた。
ファミレスやカフェでの会話ある日の練習後、いつものファミレスで向かい合って座る。
理央はポテトを摘まみながら、
「ねえ柊くん、この前も海月先輩に『ナイススパイク♡』って言われてたでしょ?
顔真っ赤になってたじゃん(笑)」
ってニヤニヤする。
柊は
「…そんな赤くなってない」
って否定するけど、耳まで熱くなってるのが自分でもわかる。
理央は
「嘘つき〜。先輩に褒められたらすぐニヤけるもん。バレバレだから」ってからかう。
柊は反撃に出る。
「理央こそ、最近2年のあの人と話してるの多くない?あれ、気になってるの?」
理央は
「は? あの人? ただの練習の話だよ!柊くんみたいにガチ恋してないし!」
って笑いながらポテトを投げてくる。
2人でくだらないことで笑い合って、海月先輩の話で盛り上がって、時々理央の恋バナ(というか、理央が「興味あるけど面倒くさい」って愚痴る話)を聞いて、普通の大学生らしい時間を過ごす。
休みの日には、「カラオケ行こ!」「ボウリング行こ!」って理央が誘ってくる。
2人で個室に入って、理央はアニソンやJ-POPを熱唱。
柊は最初恥ずかしがってたけど、理央が「歌わないと帰さないから!」って脅されて、渋々歌う。
理央が「柊くん、意外と歌上手いじゃん!次はデュエットしようよ〜」
って盛り上げてくるから、
2人でアニソンのデュエットを歌って、笑い転げる。
ボウリングに行ったときは、理央が
「私の方が絶対勝つから! 賭けようよ、負けた方奢り!」
って張り合ってくる。
柊はバレーで鍛えた体幹を生かしてストライク連発。
理央は「ずるい! ボウリングも強いとか反則!」
って悔しがりながら、結局柊が勝って、
「奢りね!」
って理央がジュースをおごってくれる。
帰り道で
「またやろ〜! 次は絶対勝つから!」
って理央が拳を握って宣言する。
柊は
「…うん、また」って小さく笑う。
理央とは恋愛感情がないからこそ、海月先輩の話も本音でできる。
「今日、先輩が他の後輩に頭撫でてて……胸が痛かった」
って言うと、
理央は
「またそれ? 柊くん、嫉妬深すぎ(笑)
でも、わかるよ。
私も好きな人に他の子と話してるとき、
モヤモヤするもん」
って共感してくれる。
理央は決して「諦めなよ」とは言わない。
「好きなら好きでいいじゃん。ただ、壊れないようにね」
って、いつもそっと寄り添ってくれる。
理央との時間は、柊にとって「海月先輩以外の世界」を教えてくれた。
友達と笑い合って、くだらないことで競って、他愛ない話をしながら帰る道。
そんな普通の日常が、少しずつ、柊の心の穴を埋めていった。
でも、海月先輩への想いは、まだ消えない。
理央との友情が、柊の「依存」を少しだけ薄めてくれたとしても、根本は変わっていない。
海月先輩がいなければ、また虚無に落ちるかもしれない。
理央は、そんな柊を「友達として」見守り続けている。
柊は、海月先輩との関係を深めたいと強く願っていた。
しかし、大学院生になった海月先輩とは部活の場で顔を合わせる機会が減り、学科が同じという利点だけが残っていた。講義の空き時間に図書館で偶然会ったり、たまにLINEで話したりする程度。
その短いやり取りでも、柊にとっては宝物だった。
「先輩、今日もお疲れさまです」
「柊くん、いつもありがとう〜♡」
一言交わすだけで、1日が輝く。
でも、それ以上は進展しない。
海月先輩はいつも通り優しく、気軽に接してくれる。
柊は「後輩として可愛がってるだけ」だとわかっていながら、「もっと話したい」「もっと近くにいたい」という想いが、抑えきれずに膨らみ続ける。
3月が近づくと、柊はまた悩み始めた。
海月先輩の誕生日(3月3日)。
去年と同じように、プレゼントを贈りたい。
でも、やっぱり女性が喜ぶものがわからない。
去年は理央のアドバイスで無難にまとめたけど、今年はもう少し「特別感」を出したい。
でも、重くなりすぎてはダメだ。
拒絶されたら……俺は壊れてしまう。
柊は練習後、理央に相談した。
みんなが帰った後、2人だけになったタイミングで。
「理央……また相談なんだけど」
理央はストレッチをしながら、
「ん? また海月先輩の誕生日プレゼント?去年と同じ悩み?」
柊は頷いて、
「うん。去年はスタバカードとハンカチで喜んでもらえたけど、
今年はもう少し……特別な感じにしたくて。
でも、重くならないようにしたいし……
女性が喜ぶものって、何がいいんだろう」
理央はストレッチを止めて、ニヤッと笑った。
「柊くん、相変わらず海月先輩に夢中だね〜。
もうそろそろ2年目経つよ? いいかげん告白しちゃえば?」
柊は顔を赤くして、
「…無理だよ。俺なんか後輩としてしか見られてないし……
プレゼントだけでも、迷惑じゃないかなって思うくらいで」
理央はため息をついて、
「柊くん、自信なさすぎ。でも、プレゼントの相談なら乗るよ。
去年と同じ予算で? それとも少し上げてみる?」
柊は少し考えて、
「去年は4000円くらいだったから、今年は……5000〜7000円くらいまでなら出せるかな。
でも、重くならないやつで」
理央は指を折って考え始めた。
「うーん、去年はギフトカードとハンカチだったし、今年は『実用的+ちょっと特別感』って方向でどう?
例えば、
・おしゃれなタンブラーや水筒(保温機能付きの可愛いデザイン)
→ 大学院で忙しいだろうし、毎日使ってもらえる
・カフェのギフトカード+手書きメッセージカード(去年より少し長めに)
→ 『いつも元気もらってます』とか『大学院がんばってください』って感じで
・シンプルなヘアアクセ(シュシュやバレッタ)
→ 部活で髪まとめるのに便利だし、女の子ウケいい
・アロマディフューザーのミニサイズやハンドクリームセット
→ 疲れたときに使ってほしい、ってニュアンスで優しい」
柊は真剣に聞きながら、
「タンブラー……いいかも。先輩、練習後に水筒持ってるし」
理央は頷いて、
「それでいこう!メッセージカードは去年より少し長めに書いて、
『先輩の笑顔にいつも救われてます』とか、
『大学院も応援してます』とか入れてみたら?
重くなりすぎない範囲で、柊くんの気持ち伝わるよ」
柊は少し照れながら、
「…ありがとう、理央。また、選ぶとき相談してもいい?」
理央は笑って、
「もちろん!柊くん、応援してるから。でもさ……今年こそ、告白しちゃえば?大学院だって、もうあと1年だよ?……本当に、別れが来ちゃうよ?」
柊は俯いて、
「分かってる……けど、怖いんだ。
でも、プレゼント渡すとき、少しだけ本音を出してみようかな」
理央は優しく頷いて、
「うん。がんばってね。柊くんが幸せになるの、私も本気で願ってるよ」
柊は、胸の奥で小さな決意を固めた。
海月先輩にプレゼントを渡す日が、俺にとっての「新しい一歩」になるかもしれない。
でも、心のどこかで、
「拒絶されたら……」
という恐怖が、静かに疼いている。




