吐露
柊・理央は大学2年生に、海月は大学院1年生になった。
しかし、特に関係に進展があるわけでもなく、ただ時は過ぎていった。
ある日、練習後のカフェ。
いつものように2人でご飯を食べた後、
理央が「柊くん、今日も海月先輩見てたでしょ〜?」とからかい始めた。
「ほんと、変わらないね~。そこまで一途なのって、なかなか珍しいよ。どうしてそんな一途なの?」
柊はフォークを置いて、ぽつりと言った。
「理央……ちょっと、真剣な話、聞いてもらえる?」
理央は少し驚いた顔をして、
「え、なに? 急に真面目」
柊は頷いて、コーヒーカップを握りしめた。
心臓が鳴っている。
これまでの生涯を通した悩みを、初めて誰かに話すことにした。
「俺は……好きになりすぎてしまうんだ。
一度好きになると、嫉妬心とか独占欲が強くなりすぎて、自分で制御できなくなる。
相手のすべてが欲しくなって、他の誰かと話してるだけで苦しくなる。
でも、自分に自信が持てないから、告白なんてできない。
拒絶されたら、立ち直れないかもって……怖くて。
だから、想いを伝えないまま、ただ執着し続ける。
長く、長く……何年も引きずってしまう」
理央はフォークを止めて、静かに聞き始めた。
柊は、目を伏せて続ける。
「前もそうだった……中学3年のとき、瑶季っていう子がいたんだ。
クラスメイトで、俺にとって初めての『深い繋がり』だった。
最後の体育祭の日、瑶季からLINEが来て、そこから毎日話すようになった。
勉強の相談から始まって、バレーの話とかたくさん話すようになって……初詣も一緒に行ったっけな」
「で、実は……受験期に俺、精神的にやられてリスカとかしてたんだけど、唯一それに瑶季が気づいてくれて、本気で泣いて怒ってくれた。
『どうして話してくれなかったの!?』って。
あの瞬間、瑶季も俺のこと好きだったかも……って、今では思う。
でも、俺、自信なくて告白できなかった。
高校別々になって、だんだん連絡するのも減って、瑶季のSNSに男友達の写真上がって……
嫉妬で吐き気して、殺してやりたいって思うくらい苦しかった。
3年半引きずって、大学入って海月先輩に会って、やっと瑶季のこと忘れたと思ったら……
今度は海月先輩に同じこと繰り返してる。
海月先輩が他の人と話してるの見ると、胸がえぐられる。
俺だけを見てほしい、俺だけと話してほしいって……
でも、告白なんてできない。
海月先輩は俺を後輩としか見てないし、拒絶されたら壊れる。
俺、どうすれば普通な恋ができるのか……
好きになるのを、こんなに苦しくなくできるのか……教えてくれよ、理央」
柊は話し終えて、肩を落とした。
涙がこぼれそうになるのを、必死に堪える。
理央は、少し黙ってから、ゆっくりと言った。
「柊くん……そんなに苦しんでたんだ。瑶季さんのこと、初めて聞いたよ。
中学からずっと、そんな想い抱えてたなんて……重いね、ほんとに。
まず、すごい勇気出したね。ここまで全部話してくれて、ありがとう。
私、柊くんのそういうところ、嫌いじゃないよ。
むしろ、好きだよ。友達として、ほんとに」
「柊くんは自分に自信持てないって言うけど、自分で思うより、柊くんはすごい人だよ。
『俺なんか』って言うの、中学から変わってないみたいだけど、それが柊くんの魅力でもあるんだよ。
嫉妬とか独占欲、確かに強いかもだけど、それは好きになりすぎるからだよね。
普通の恋? そんなの、人それぞれだよ。
私だって、好きな人できたら嫉妬するし。
でも、柊くんの場合、自信のなさが全部を悪循環させてる気がする。
告白して振られたら終わり、じゃなくて、
振られたら次の恋を探せばいいじゃん。
海月先輩だって、大学院だからまだチャンスあるよ?
柊くんがそんなに苦しんでるなら、
私、背中押すよ。一緒に作戦立てようか?」
柊は、理央の言葉を聞きながら、涙が一筋こぼれた。
「…ありがとう、理央。でも、まだ……怖いんだ。
でも、考えてみるよ」
理央はニコッと笑って、
「うん。無理にとは言わないけど、柊くんが幸せになるの、私も応援してるから。
瑶季さんのことみたいに、後悔しないようにね」
柊は頷いた。
この相談が、柊の心を少しだけ軽くした。
理央という友達がいる今、柊は少しだけ、前に進む勇気を持てそうな気がした。




