プチデート
柊は理央のアドバイスをしっかり胸に刻み、予算を3000〜5000円程度に抑えつつ、
「気持ちが伝わるけど重くなりすぎない」ものを選んだ。
最終的に決めたのは、スターバックスのギフトカード(3000円分)
シンプルで可愛い桜柄のハンカチ(誕生石カラーのピンクがかった色味)
小さなメッセージカード(手書きで「いつもありがとうございます。海月先輩の笑顔に元気をもらってます」)
これを小さな紙袋にまとめて、理央に「これで大丈夫かな?」と見せると、
理央は「完璧! これなら喜ぶよ。重くならないし、毎日使ってもらえるものもあるし」
と太鼓判を押してくれた。誕生日当日(3月3日)は、海月先輩から
「ごめんね〜、今日は予定が入っちゃってて……」
と丁寧に断られた。
柊は少し胸が痛んだけど、
「じゃあ、後日でもいいですか?」
と勇気を出して返信すると、
「もちろん! ありがとう♡ じゃあ3/15とかどう?」
と返事が来た。
柊はスマホを握りしめて、部屋の中で小さくガッツポーズをした。
3月15日の午後。
大学近くのカフェで待ち合わせ。
海月先輩は普段着で現れた。
白いニットにデニム、軽く巻いた髪が春らしくて、柊は一瞬息を飲んだ。
「柊くん、お待たせ〜! 今日はありがとうね♡」
柊は「いえ……こちらこそ」と言いながら、心臓が爆発しそうだった。
これは、プチデートだ。
海月先輩と二人きりで、カフェで話す。
こんな時間が来るなんて、想像もしていなかった。
カフェでは2時間くらい話した。
海月先輩の卒論、大学院、部活、バイト、卒業旅行先での話、他にも他愛無い話がたくさん続いた。
柊は緊張しながらも、
「先輩の研究、面白そうですね」
「こらからも、また会えますよね?」
と、少しずつ踏み込んだ言葉を織り交ぜた。
海月先輩は笑って、
「もちろん! 大学にはいるしね~。部活もたまには顔出すつもりだよ。柊くんの試合の応援とか行っちゃおうかな♡」
そんな言葉に、柊は胸が熱くなった。
話の終わり頃、柊は紙袋を差し出した。
「…これ、誕生日プレゼントです。遅くなりましたが…」
海月先輩は目を丸くして、
「え、ほんとに? ありがとう〜!」
袋を開けて、中身を見た海月先輩は、
「わぁ、スタバのカード! 最近ハマってるんだよね〜。
ハンカチも可愛い! 桜の色、春っぽくて好き♡
メッセージカード……『いつもありがとうございます。海月先輩の笑顔に元気をもらってます』……
柊くん、こんなの書いてくれたの? 嬉しい……ありがとう」
海月先輩は本当に喜んでくれていて、柊は胸が熱くなって、言葉が出なかった。
「よかった……喜んでもらえて」
すると、海月先輩が自分のバッグから小さな箱を取り出した。
「実は、私からも……柊くんの誕生日(3/12)、覚えてたよ。
遅れちゃったけど、これ、受け取ってくれる?」
箱を開けると、中にはシンプルな腕時計。
シルバーのベルトに、黒い文字盤。
スポーツタイプだけど、少しおしゃれで、大学生が日常的に使えるデザイン。
柊は、呆然として、
「…え、先輩、これ……俺に?」
海月先輩は少し照れくさそうに、
「うん。柊くん、いつも練習頑張ってるし、なんか……お祝いしたくて。似合うかな?」
柊は、震える手で腕時計を受け取った。
柊は言葉が出ない。
海月先輩が、
俺の誕生日を覚えていて、
プレゼントを用意してくれていた。
しかも、腕時計。
毎日つけるもの。
毎日、海月先輩のことを思い出すもの。
「…ありがとうございます。すごく、嬉しいです」
声が震えた。
海月先輩は
「似合うかな? 早くつけてみて〜!」
って促してきて、柊は震える手で腕に着けた。
ぴったりだった。
カフェを出た後、柊はすぐに理央にLINEを送った。
柊
『理央、今日海月先輩にプレゼント渡せた。喜んでくれたみたい。
それに……先輩から腕時計もらった。俺の誕生日覚えててくれたみたい……』
理央からはすぐに返事が来た。
理央
『えええ!! マジで!?
海月先輩、覚えててくれたんだ! やったじゃん!!
腕時計って……めっちゃ良いじゃん!
でも、喜びすぎて重くならないようにね〜』
柊は、スマホを握りしめて、『ありがとう』とだけ返した。
その日から、柊は外出時には必ずその腕時計をつけるようになった。
部活に行くときも、講義中も、バイト中も。
視界の端に光る針を見るたび、海月先輩の笑顔が浮かぶ。
「先輩が選んでくれた」という事実が、胸を温かくする。
でも、同時に、
「海月先輩は俺のこと、どう思ってるんだろう……」
という疑問が、胸の奥で疼き続ける。
柊の想いは、どんどん膨らむ。
つい1年前まで病的なまでに執着していた瑶季のことは、既に全く思い出さなくなっていた。
3月6日、瑶季の誕生日が過ぎても、柊は全く気づかなかった。
忘れていた。
瑶季の名前を思い浮かべることも、ほとんどなくなっていた。
海月先輩の存在が、瑶季の記憶を完全に上書きした。
だがそれは、執着の矛先が、ただ相手を変えただけ。
恋心、嫉妬、独占欲——
すべてが、海月先輩に向かって、静かに暴走し続ける。




