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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
高校時代編

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34/77

空虚

高校の卒業式の日。

体育館の壇上から校長の言葉が流れ、卒業証書を受け取る列に並ぶ柊の姿は、どこかぼんやりしていた。

クラスメイトの笑い声、担任の最後の激励、後輩たちの「お疲れ様でした!」という声援。

すべてが耳に入ってくるのに、心に響かない。


式が終わって、クラスでの集合写真を撮り終え、みんなが散らばっていく中、柊は一人、校舎の裏のベンチに座った。

高校3年間を振り返ろうとする。

出てくるのは、体育祭で優勝したリレー、文化祭で部活の展示を手伝った夜、バレー部で練習に打ち込んだ日々、友達と笑い合った放課後……

そんな「充実していたはず」の記憶なのに、どれも薄い。

色褪せた写真のように、輪郭がぼやけている。

代わりに、鮮明に蘇るのは、

「もし瑶季と同じ高校に通えていたら」

という、終わらない想像だけだった。

同じ制服を着て、朝の校門で待ち合わせて「おはよう」って言い合う。

昼休みに屋上で弁当を食べながら他愛ない話をする。

文化祭で一緒に模擬店を回って、体育祭で一緒に応援団を組んで、部活帰りに待ち合わせて帰る。

夏祭りに浴衣で手を繋いで歩く。

冬の帰り道にマフラーを貸し合う。

全部、全部、起こらなかった未来。

そんな「もしも」の日常が、鮮やかに頭の中に広がる。

違う高校だったとしても、あの時——中学3年の冬、傷を見られて瑶季が泣いた日——

「好きだ」って言えていたら。

夏祭りの夜、手を繋いだときに「俺と付き合って」って言えていたら。

元彼からの復縁メッセージのスクショを見せられたときに、「俺の方が瑶季のこと大事にする」って言えていたら。

「あの時告白できていれば」

中学の卒業式のあと、春休みの公園、夏祭りの花火の下、定期演奏会のロビー、いつでも言えたはずなのに、怖くて言えなかった。


柊はスマホを取り出して、アルバムを開いた。

中学の卒業式のツーショット。

春休みの公園でパスした汗だくの瑶季。

夏祭りの浴衣姿。

もう3年以上前の写真なのに、今でも一番鮮明に心に残っている。

あの頃は、まだ瑶季が近くにいた。

今は、写真を見ても、瑶季の声が朧げにしか思い出せない。

「健人くん、お疲れさま!」

「おやすみ、また明日ね」

あの柔らかい声が、記憶の中で薄れていく。

写真無しでは、瑶季の顔さえぼやけてくる。

なのに、執着だけは消えない。記憶が、年々薄れていく。

それが、怖い。


最後に直接会ったのは、高1の定期演奏会。

あのときも、声をかけられなくて、遠くから眺めて帰った。

あれ以来、一度も会っていない。

連絡も、ほとんど途絶えた。

高校3年間は、「瑶季への執着」の3年間だった。

部活で汗を流しても、勉強で頭を埋めても、友達と笑っても、心の底ではいつも瑶季を探していた。

瑶季がいない日常が、虚無感となって胸を埋め尽くす。

それでも、「瑶季がいたから」という過去の温もりに縋って、なんとか生きてきた。

卒業証書を握った手が、冷たい。

校庭の桜はもう散り始めていて、風に舞う花びらが、柊の視界を横切る。

「もし瑶季と同じ高校だったら、もっと楽しかったのかな」

「もっと幸せだったのかな」

「違う高校でも、あの時告白できていれば……」


想像は、永遠に終わらない。

柊は立ち上がって、ゆっくり校門に向かった。

卒業式が終わった今、高校生活も、本当に終わった。

でも、心の中の瑶季は、まだ終わっていない。

美化された過去の中で、永遠に笑い続けている。


これから大学が始まる。

新しい場所、新しい人間関係、新しい日常。

瑶季のいない世界で、

柊は生きていかなければならない。

でも胸の奥に残るこの痛みは、一生消えないのかもしれない。

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