崩壊・②
柊はベッドに横になり、スマホを無意識にスクロールしていた。
最近の習慣——瑶季のSNSをチェックする。
連絡がほとんどない今、瑶季の日常を垣間見る唯一の手段だった。
瑶季の投稿は減っていたが、時々アップされるストーリーやフィードに、柊の目は釘付けになる。
今日も、何気なく開いた瑶季のプロフィール。
新しい投稿が上がっていた。
スクロールする指が止まった瞬間、胸に氷を突き刺されたような感覚が走った。
写真は2枚。
1枚目は、瑶季と男の後ろ姿。
背景は公園かどこか、夕陽が差し込む穏やかな場所。
肩を組んで歩いている。
瑶季の髪が風に揺れて、男の肩に軽く触れている。
2枚目は、2人で並んで笑顔の自撮り。
瑶季の笑顔は、昔柊に見せてくれたものと同じ。
でも今は、隣にいる男に向けられている。
キャプションはシンプル。
「今日も楽しかった〜♡」
「 #夏の思い出」
その瞬間、柊の世界が止まった。
スマホを握る手が震え、画面がぼやける。
胸の奥から、黒い渦が湧き上がる。
誰だ。
この男は誰だ。クラスメイトか。部活の人間か。
それとも……彼氏か。
頭の中で、声が無限にループし始めた。
「この男は誰だ」
「肩を組むな」
「触れるな」
「瑶季の隣で笑うな」
「瑶季の笑顔は俺のものだ」
「憎い」
「殺してやりたい」
頭の中で、そんな声が無限にループする。
理性では「そんなこと思っちゃダメだ」とわかっているのに、止まらない。
嫉妬が、毒のように体中を駆け巡る。
想像が暴走する。
その男が瑶季の手を握っている。
瑶季がその男に「おはよう」って送っている。
瑶季がその男と浴衣で花火を見ている。
瑶季がその男に「大好き」って言っている。
瑶季がその男の隣で、俺のことを忘れて笑っている。吐き気がした。
本当に、胃が捩れるような吐き気。
スマホを投げ捨ててトイレに駆け込み、洗面台に両手をついて、何も出ないのに何度もえずいた。
嫉妬が、胸を締めつける。
独占欲が、喉を塞ぐ。
執着が、頭を焼く。
恋心は消えない。
消えるどころか、
この瞬間からさらに強烈に、
黒く、ねっとりと、
柊の心を覆い尽くした。
瑶季の投稿を何度も開いて、男の顔を睨む。
拡大して、瑶季の表情を細かく見る。
あの笑顔は、本物か?
俺と一緒にいたときの笑顔より、幸せそうか?
そんな比較が、ますます柊を追い詰める。柊はスマホを投げ捨て、布団に顔を埋めた。
涙が止まらない。
瑶季への恋心は、消えるどころか、嫉妬と独占欲を燃料に、さらに強烈になっていく。
瑶季が他の誰かと一緒にいる想像だけで、体が震える。
瑶季のすべてが欲しい。
瑶季の時間、瑶季の笑顔、瑶季の声——全部、俺のものにしたい。
でも、現実は変わらない。
連絡は来ない。
既読すらつかない。
瑶季の日常は、どんどん柊から遠ざかる。




