深化
柊は、毎晩のようにスマホのアルバムを開いていた。
卒業式のツーショット。
瑶季の笑顔が、自分と並んでいる。
春休みの遊園地で撮った、観覧車の中の自撮り。
公園でバレーをした後の、汗だくで笑い合う2人。
ファミレスのテーブルで、ノートを広げて勉強している横顔の写真。
すべてが、色鮮やかで、温かくて、遠い。
スクロールする指が止まると、次はトーク履歴。
中学3年の頃の、深夜まで続いた無数のメッセージ。
「今日もお疲れ!」「数学のここ、わかった?」「寝落ちしちゃった、ごめん!」
インフルエンザのときの「お大事に♡」のスタンプ。
夏祭りの前日の「楽しみ〜♡」
すべてが、過去のもの。
柊は、画面をタップして拡大する。
瑶季のアイコン。
最後のメッセージは、3月6日。瑶季の誕生日。
柊は重くならないように、長くなりすぎないように考えたメッセージを昨年同様の午前3時6分に送信した。
だが、柊が送ったお祝いメッセージに既読がついたのは1週間後で、返事はなかった。
柊の誕生日に、通知は1件も来なかった。
柊は、ベッドに仰向けになって、天井を見つめた。
胸の奥で、何かが静かに崩れていく音がする。
(もう、俺のことなんて忘れてるんだろうな)
瑶季の日常は、もう柊抜きで完結している。
吹奏楽部のコンクールで金賞を取ったニュースを、共通の友達のSNSで見た。
瑶季の笑顔が、たくさんの友達に囲まれて輝いている。
男友達も、女友達も、みんなで旅行に行った写真もあった。
瑶季は、幸せそうだった。
柊は、スマホを胸に押しつけて、目を閉じた。
(あの時……)
中学3年の冬、教室で傷を見られて瑶季が泣いた日。
本気で怒って、涙を流して、「一人で抱え込まないで」と言ってくれた。
あの瞬間、瑶季も俺のことを好きだったのかもしれない。
友達以上の何かを感じてくれていたのかもしれない。
元彼からの復縁メッセージのスクショを送ってきたとき。
「あの時、俺が『俺と付き合え』って言えてたら……」
夏祭りの夜、手を繋いだとき、「好きだ」って言えてたら。
卒業式の後、春休みの最後の日。
「高校違っても、ずっと一緒にいよう」って、もっと強く言えてたら。
「たられば」が、頭の中で無限にループする。
後悔が、嫉妬と独占欲を燃料に、どんどん膨らむ。
(瑶季は俺のものだったはずだ。俺の側にいてくれるはずだった。他の誰かと笑ってる瑶季なんて、見たくない。俺だけを見てくれればよかったのに……)
柊は、スマホの画面をもう一度開く。
過去の通話履歴。
深夜2時まで続いた、ただ呼吸音だけが聞こえる時間。
あの頃は、瑶季の存在が、自分の心の支えだった。
今は、その記憶だけが支えだ。美化された過去に縋る。
現実の瑶季は、もう遠い。
連絡は来ない。
既読すら、遅い。
柊は、毎晩のように同じ写真を眺め、同じ記憶を反芻し、胸の痛みを噛み締めて眠りにつく。
(瑶季……俺は、まだ好きだよ。今でも、ずっと……)
でも、その言葉は、もう瑶季に届かない。
柊の心の中でだけ、永遠に響き続ける。




