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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
高校時代編

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回帰

大晦日の夜。

柊の部屋は暗く、窓の外から聞こえる遠くの花火の音だけが、時折静寂を破る。

家族はリビングで紅白を見ていて、笑い声が微かに漏れてくる。

柊はベッドに座ったまま、膝を抱えてスマホを握っていた。


画面は瑶季のトークルーム。

最後のメッセージは、11月下旬。

柊が送ったメッセージに、既読は未だについていない。

それが、瑶季に拒絶されているようで耐えがたい孤独感に苛まれ続けている。


1年前の今頃を、柊は鮮明に覚えている。

メッセージのやり取りを続けて、通話を繋いで一緒にカウントダウンして、日付が変わった瞬間に「あけおめ!」と言い合ったこと。

元旦に、一緒に初詣に行き、合格祈願で同じ願い事をしたこと。

「毎年一緒に来よ?」

あのとき瑶季が言った言葉が、頭の中で何度もリピートされる。

「来年も一緒に…」

でも、今の瑶季はもう覚えていないだろう。


新しい友達、新しい部活、新しい日常。

瑶季のSNSを見れば笑顔で誰かと写っている写真が並ぶ。男友達もいる。

みんな楽しそうで、瑶季の隣にいる人が、柊の想像の中でどんどん自分でない誰かに置き換わっていく。

実際にいるのかどうかも分からない「想像上の彼氏」が瑶季の手を繋ぎ、瑶季が浴衣で花火を見上げて笑い、「おめでとう」ってメッセージを送り合って、誕生日を祝って、「おやすみ」を言って……。

吐き気がする。そんな相手がいるなら、殺してやりたい。

そんな想像だけで、胸が締めつけられて息が苦しくなる。

胃が捩れるような痛み。

瑶季のSNSは見ないように意識している。

もう自分は瑶季に必要とされていない、瑶季の日常に俺はいないと事実を突きつけられると分かっているから。

そう分かっていても、気づけば指が勝手に瑶季のアカウントを開いている。まるで監視しているかのように……


毎晩、孤独が押し寄せる。

瑶季の声が聞きたい。

あの柔らかい「おはよう」の一言。

夏祭りで繋いだ手の温もり。

自傷がバレた日の教室で、瑶季が泣きながら抱きついてくれた感触。

全部、美化されて頭の中で繰り返される。


「あの頃に戻りたい」

気付けば、柊は中学3年の冬に戻りたいと思うようになっていた。

受験のプレッシャーで潰れそうで、運動不足とゲーム封印で苛立って、自傷までして、精神崩壊寸前の地獄に陥っていた。

それでも、あの時は瑶季が毎日いてくれた。

LINEが来て、通話がつながって、「おやすみ」って言ってくれた。

瑶季がいたから、俺は完全に壊れずに済んだ。

瑶季がいたから、俺は生きられた。

瑶季の存在が俺の生きがいであり、活力であり、瑶季こそが俺の生きる意味だった。


でも、今はもういない。

連絡が途切れて、

俺の存在は瑶季の中で薄れていく。

瑶季は新しい世界で輝いているのに、俺は古い思い出に縋って、一人で腐っていく。


指が震えて、メッセージを打ちかけた。

『あけましておめでとう』

送信するか、しないか。

結局、送信できなかった。

画面を消して、布団に潜り込んだ。外で花火が上がる音がする。

新年が来た。でも柊の心の中では、まだ去年のままだった。

瑶季がいる去年に、取り残されたまま。


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