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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
高校時代編

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夏祭り

夏祭り当日、7月28日の夕暮れ。

待ち合わせの神社の鳥居前は、提灯の灯りがぼんやりと灯り始め、遠くから太鼓の音が響いてきていた。

柊は甚平姿で少し早く着いて、スマホを握りしめながら周りを見回していた。

黒地に細かい縞模様の甚平は、母親に「せっかくだからちゃんと着なさい」と言われて渋々選んだもの。

鏡で何度も確認したけど、結局「俺なんか似合ってないだろ…」と思いながら家を出てきた。


ふと、参道の向こうから白い浴衣の影が見えた。

瑶季だった。淡い水色の浴衣に、桜の柄が散らばった帯。髪はアップにして、耳元に小さな花の髪飾り。

足元は下駄で、少し小走りになるたびに裾が揺れる。

中学の頃の瑶季とは違う——いや、同じ瑶季なのに、なぜか今は別人のように見えた。

数ヶ月会っていないだけのはずなのに、瑶季は数段、可愛く、綺麗で、美しくなっていた。

浴衣のせいか、夏祭りの雰囲気のせいか。

それとも、柊の目がもう「友達」として見られなくなったせいか。


瑶季も柊を見つけて、ぱっと顔を輝かせた。

「柊くん!」

瑶季が駆け寄ってくる。

柊も思わず足を踏み出して、

「瑶季…!」

2人は鳥居の前でぶつかりそうになりながら止まった。

互いに息を弾ませて、笑い合う。

「久しぶり!! 甚平、似合ってるよ! かっこいい!」

「瑶季こそ…浴衣、めっちゃ綺麗だよ。…ほんとに、綺麗」

言葉が素直に出て、柊は自分で言って赤くなった。

瑶季も頰を染めて、「ありがとう…! なんか、緊張しちゃうね」


――なんか、変だ。

中学の頃は、体育祭のあと、受験前、春休みまで、毎日会っていた。毎日話していた。

なのに今、たった数ヶ月会わなかっただけで、こんなにぎこちない。こんなに緊張する。

瑶季の瞳が少し潤んでいて、柊の喉が乾いている。心臓が爆発しそうなくらい鳴っている。

瑶季も、視線を少し逸らしたり、髪をいじったり、どこか落ち着かない様子。

まるで初デートのような、初めての夏祭りのような空気。

「…行こっか」

柊が先に歩き出し、瑶季が隣に並ぶ。


参道を進むにつれ、人混みが増え始めた。

屋台の匂い、子供の笑い声、金魚すくいの水音。

夏祭りの喧騒が、2人の緊張を少しだけ和らげる。

しばらく歩いたところで、瑶季が急に立ち止まった。

人ごみが濃くなり、流れに押されそうになる。

肩がぶつかりそうになるたび、瑶季が小さく体を寄せてくる。

瑶季の手が、そっと柊の手に触れる。

細くて、少し冷たい指。柊の右手の小指に、瑶季の薬指が触れる。

そのまま、ゆっくりと指を絡めて、手を繋いでくる。

強く、でも優しく。

柊は一瞬、息が止まった。けど、反射的にギュッと握り返す。

瑶季は小さく息を吸って、「…逸れたら、困るもんね」って付け加えた。

でも、それは言い訳だって互いに分かっていた。

「…瑶季」

「…ん」

言葉はない。

ただ、手を繋いだまま、2人は無言で人混みの中を歩き続けた。

手が繋がってるだけで、心臓の音が耳に響く。瑶季の浴衣の袖が、柊の腕に触れるたび、電気が走るみたいに体が熱くなる。

柊の頭の中は、瑶季の手の感触でいっぱい。

この手が、他の誰かと繋がる日が来たら——と思うだけで、胸が締め付けられる。

嫉妬と渇望が、喉の奥で渦を巻く。

でも、今この瞬間は、瑶季の手が、自分の手に絡まっている。

浴衣の袖が触れ合うたび、瑶季の匂いがふわっとする。


金魚すくいの屋台の前で立ち止まり、

「やってみる?」

「うん! でも私、下手だから柊くん助けてね」

そんな他愛もない会話が続く。

りんご飴を分け合ったり、射的で小さなぬいぐるみを当てたり。


花火が上がる時間近くになると、2人は神社の裏手の少し静かな場所へ移動した。

花火が夜空に咲く。赤、青、金。

爆音と光が交互に訪れる中、瑶季がぽつりと言った。

「…高校、別々になっちゃったけど、こうやって会えるの、嬉しいよ」

柊は、繋いだ手を強く握り返した。

「俺も。瑶季と会えるだけで…俺、がんばれる」

言葉はそれだけ。

告白には、まだ至らない。

でも、この夜の瑶季の手の温もりは、柊の心に深く刻まれた。

瑶季への恋心、依存、執着——

すべてが、この夏祭りでさらに濃く、熱くなった。

花火が終わった後、2人は手を繋いだまま、帰り道を歩いた。

別れ際、瑶季が小さく言った。

「また、会おうね。今度は…もっと早く」

柊は頷いて、「うん。絶対」と返した。

瑶季の後ろ姿を見送りながら、胸の奥で呟く。

(瑶季は俺のものだ……誰にも渡したくない)


この夏祭りは、2人の関係に新しい火を灯した。

でも、それはまだ、静かに燃えるだけの火だった。

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