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好きになりすぎるのは、悪いことですか  作者: ネロ
高校時代編

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24/77

挫折と渇望

柊の「俺なんか…」という根本の思考回路は、高校に入ってからも変わらなかった。

いや、むしろ高校入学を機にさらに強まっているかのようにすら見えた。


柊は元々自己肯定感が低く、自分に自信が持てない性格だった。客観的に見てスペックは高いのに自分でそれを認められず、「自分はダメだ」という半ば思い込みのような自己否定が激しかった。中学時代は模試や部活の大会で一定の結果を残しても、偶然や周りのおかげという言葉で片付けて自分の実力を信じられなかった。

受験のストレスやプレッシャーで限界を迎えたとき、誰にも話せず一人で抱え込んで自傷にまで至った。

そんな中で、瑶季が自傷の闇から救い出してくれた。瑶季という存在が、脳内で響く自己否定の声をかき消した。瑶季が隣にいることで、瑶季が必要としてくれることで、自分にも価値があると思えた。


しかし、その瑶季とは離ればなれになった。

会えなくなったわけじゃない。瑶季が消えてしまったわけでもない。高校が違うだけだから、会おうと思えばいつでも会いに行ける。電話番号もLINEも交換しているから、連絡だっていつでも取れる。

だが、通話やLINEはどんどん少なくなっていく。

最初は「慣れない高校生活で疲れてるんだろう…」「忙しいんだろう…」「仕方がない…」と自分を納得させていた。

しかし、返事を待つ時間は徐々に苦痛に変わっていった。

柊は、瑶季のためなら全てを投げうてるつもりでいた。まだ慣れない高校生活でどれだけ疲れていようとも、瑶季に会うだけで、電話で瑶季の声を聞くだけで、LINEで会話をするだけで一瞬で身体が軽くなる。瑶季のためなら、自分の全てを犠牲にできる。他の時間を削ってでも、瑶季との時間に充てられる。

自分の生活の中心は瑶季であり、心の中には常に瑶季が存在する。

そのせいか、瑶季との時間が少なくなると共に、瑶季との時間への、瑶季の声への、温もりへの、存在への渇望が強くなる。瑶季への感情がどんどん強く、重いものになっていく。渇きや飢えが酷くなっていく。


だが、返事が遅くなる度に、瑶季に拒絶されているかのような感覚に襲われる。

「瑶季は、別に俺との時間が無くても平気なのかもしれない」

「もう、俺のことなんか必要としてないのかもしれない」

「俺のことなんか忘れてしまったのかもしれない」

「俺が求めるほどに、瑶季は俺のことを求めていない…」

自分の思いと瑶季の思いがすれ違っているのが嫌でも分かってしまう。

これまで精神安定剤になっていた瑶季の存在が、声が、温もりが、徐々に過去のものへなっていく。

「瑶季がいれば、俺は大丈夫」と思えていたのが、「瑶季がいないと俺はダメだ」という思考に変わっていく。



瑶季のいない日常は、徐々に陰りができ始めた。


高校での勉強は、中学までに比べて範囲も、難易度も、進度も桁違いだった。

これまでは学年順位で常に1桁に入っていたのに、高校での内容に徐々についていくのが難しくなった。

5月、高校初の中間テストで、柊はこれまでの人生で初めて平均点を下回った。

点数と順位を見た瞬間、柊は驚愕した。

テストが終わった瞬間、手応えは明らかに無かった。でも、他のみんなもそうなんだろうと思っていた。

まさか、平均点にさえ届かないとは思っていなかった。


部活も上手くいかなかった。

入部して間も無い頃は、県大会でも活躍した選手だと先輩たちから注目されていた。

しかし、高校生の壁は思った以上に分厚かった。

自分より遥かに背の高く、技術もある先輩たち。同期達も、各中学でエースやキャプテンを張っていた者ばかり。高校からバレーを始めた者も、持ち前の身体能力や、その頭脳で効果的な練習を行って急激に実力をつけていく。

柊は身長もあまり伸びず、4号球から5号球に大きくなったボールになかなか適応できず、伸び悩んでいた。練習試合で出場してもほとんど活躍できず、無力感と自責の念だけが強くなっていくばかりだった。

中学時代はチームの絶対的エースとして活躍していたという自負があっただけに、ショックが大きかった。


柊は人生で初めて、明確な挫折を味わった。

これまでは、特に原因は思い当たらないのに自分に自信が持てないという状態だった。

しかし、勉強もバレーも上手くいかないという明確な自信喪失の機会ができてしまった。


もし今、瑶季が近くにいれば以前のように「瑶季がいれば大丈夫」と思えたかもしれない。

だが、瑶季は今近くにはいない。連絡頻度すら低くなっていく。


柊の挫折した心に、瑶季がいない日常がさらに追い打ちをかけていく……

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