春休み
春休みは、予想以上に2人の時間を埋め尽くした。
公立高校の合格発表から数日後、柊は新しい制服の採寸に行き、瑶季は第二志望の高校の入学説明会に参加した。
それでも、毎日のようにLINEが続き、通話が続き、会う約束が次々と入った。
「高校が別々になったから、春休みはたくさん遊ぼう」——そんな自然な流れで、2人は毎日を共有していった。
SVリーグのシーズンがちょうど佳境を迎えていたこの時期、2人は地元のチームのホームゲームに何度か足を運んだ。アリーナの観客席で隣同士に座り、
「今のスパイク、跳び方めっちゃ参考になるよね」
「ブロックの絞り方が良いよね」
と、試合の実況みたいに囁き合う。
試合後、帰り道にコンビニで買ったホットコーヒーを飲みながら、
「次はアウェイも行ってみようか」
そんな他愛もない話で、夜の街を歩く。
公園で軽くバレーをする日もあった。
柊がネットを張り、瑶季が「私、サーブ下手だから優しくね!」と笑いながらトスを上げる。
柊のスパイクは、昔のエースの面影を残しながらも、瑶季の前では控えめになる。
「瑶季、トス上手くなったじゃん」
「柊くんが教えてくれたからだよ」
汗を拭きながらベンチに座って、スポーツドリンクを分け合う。
側から見たら、完全にカップル。
でも、2人は「友達」として、その境界を越えていない。
遊園地に行った日もあった。
ジェットコースターで瑶季が「怖い怖い!」と柊の袖を掴み、観覧車で頂上に来たときに、
「高校違っても、こんな風に遊べるよね?」
「うん。絶対」
と、約束のような言葉を交わした。
科学館では、プラネタリウムで隣同士に座り、星空の下で
「宇宙って広すぎて怖いよね」
「でも、瑶季と一緒なら、なんか安心する」
と、柊が珍しく本音を漏らした。
瑶季は少し照れて、
「私も…柊くんと一緒なら、どこでも行ける気がする」
と返した。
そんな春休みの日々が、2人にとってかけがえのない時間だった。
クラス最後の打ち上げ。
クラスのメンバーだけで集まり、比較的安価な焼肉食べ放題の店。
長テーブルにずらりと並んだクラスメイトたち。
柊と瑶季は、当然のように隣同士の席に座った。
「またこの2人隣かよ〜」
「もう完全にカップルじゃん」
「本当に付き合ってないの? 嘘だろ?」
冷やかしが飛ぶたび、2人は笑って受け流す。
「だから、友達だって!」
瑶季がフォークを振りながら言うと、
「友達でそんなにベタベタすんなよ〜」
とさらにツッコミが入る。
隣で瑶季が「もう、みんなうるさい!」と笑って返す。
柊は黙ってカルビを焼いて、瑶季の皿に置いてやる。
瑶季が「ありがとう♡」って小声で言って、
柊は「…別に」って返す。
周りは「ほらほら、またやってる!」って大爆笑。
焼き肉の煙が立ち上る中、みんなが「高校がんばろうぜ!」と乾杯する。
柊はグラスを掲げながら、隣の瑶季をチラッと見た。
瑶季も、同じタイミングで視線を返してきた。
言葉はないけど、目が合った瞬間、2人とも小さく笑った。
「高校違っても、毎日連絡取ろうね」
「うん。絶対」
そんな約束が、煙のように漂う店内に溶けていった。
2人は付き合っていない。
でも、側から見たら完全に恋人同士。
柊の心の中では、瑶季への想いが「友達以上」の領域に深く入り込んでいる。
この春休みは、2人にとって「最後の自由時間」だった。
高校が始まれば、環境が変わり、距離が変わり、少しずつ、何かが変わっていくかもしれない。
でも、今はこの瞬間だけが、2人のすべてだった。




