柊の誕生日
3月12日(土)、柊の誕生日。
公立入試の2校とも終わって、合格発表まではあと数日。
受験のプレッシャーが抜けた反動か、柊は2日連続で朝からぐっすり眠り込んでいた。
目が覚めたのはもう11時近く。
布団の中でぼんやり天井を見上げて、ようやく「今日、誕生日だった」って思い出した。
スマホを手に取ると、通知がいくつか。
一番上に瑶季からの長文メッセージが届いていた。
送信時刻は朝8時半。
瑶季は早起きなんだな、と思いながら、柊はゆっくり読み始めた。
瑶季
『柊くん、お誕生日おめでとう!!
15歳だね。なんか、柊くんが15歳って聞くと、まだまだ子どもだなって気がする笑
なんか大人っぽいとこあるからさ笑
初めて話した日のこと、覚えてる?
体育祭の集合写真でみんなに真ん中に引っ張られて、柊くんが困った顔してたやつ。
あのときの柊くん、なんか…すごく可愛かった。
「俺なんか…」って顔してたけど、私から見たら「めちゃくちゃかっこいいのに、本人だけ気づいてない」って感じだったよ。
それから毎日LINEしたり、勉強会したり、柊くんの傷を見た日泣いちゃったり…
いっぱいあったよね。
12月、柊くんのこと本気で怒って泣いた日とか、初詣で一緒に願い事した日とか、インフルで熱出してたとき毎日通話した夜とか。全部、全部、私の大事な思い出。
柊くんがいてくれたから、受験も怖くなかった。
数学苦手だった私に根気よく教えてくれて、「瑶季ならできる」って信じてくれて、ありがとう。
ほんとに、ありがとう。
柊くんの誕生日だけど、わがまま言っていい?
これからも、ずっと友達でいてね。
一緒の高校行けたら最高だけど、もし高校が別々になっても、毎日話して、たまに会って、また一緒に笑ってたい。
柊くんがいないと、私もなんか…寂しいもん。
お誕生日おめでとう、柊くん。
大好きだよ♡』
メッセージと一緒に、1枚の画像が送信されていた。卒業式でのツーショット写真。写真には加工が入っていた。柊の顔の上に手描きのキラキラマークと、「今日の主役!」と文が添えられていた。
読み終えた瞬間、柊の胸が熱くなった。
目頭がじんわりして、慌てて手の甲で拭った。
家族以外から、誕生日にこんな長いメッセージが来るなんて、
小学生以来、いや、もしかしたら生まれて初めてかも。
柊はベッドに座ったまま深呼吸して、そのまま通話ボタンを押した。数コールで瑶季が出た。
瑶季
「…もしもし? 柊くん?」
柊
「…おはよう。起きてた?」
瑶季
「うん! メッセージ見た? 読んでくれた?」
柊
「…読んだ。ありがとう」
声が少し震えてるのに気づいて、慌てて咳払いした。
瑶季はすぐに察したみたいで、
「ふふ、泣いた?」
って優しく聞いてくる。
「…ちょっとだけ」
瑶季
「私も送りながら泣きそうだったよ。改めて、お誕生日おめでとう」
少しの沈黙のあと、柊がぽつりと言った。
柊
「…今日、暇?」
瑶季
「うん! 空いてるよ!」
柊
「遊びに…行かない?どこでもいいけど。瑶季と一緒にいたい」
言葉が出た瞬間、顔が熱くなった。
でも、もう後戻りできない。
瑶季は一瞬黙って、それから明るく返してきた。
瑶季
「いいよ! どこ行こっか?ファミレスでもいいし、公園でもいいし、柊くんが決めていいよ」
柊は少し考えて、
「…じゃあ、いつものファミレスで。昼ごはん食べて、話そう」
瑶季
「うん! じゃあ、1時くらいに駅前で待ってるね。楽しみ〜!」
通話を切ったあと、柊はスマホを胸に当てて、ゆっくり息を吐いた。
15歳の誕生日。
初めて、家族以外の人と誕生日を一緒に過ごす約束をした。
合格発表の結果がどうなろうと、今日という日は、瑶季と一緒にいる。
それだけで、胸がいっぱいだった。
午後1時、駅前。
瑶季はピンクのニットにデニムという、いつもより少しおしゃれな私服で待っていた。
柊を見つけると、大きく手を振って駆け寄ってきた。
「お誕生日おめでとう! プレゼントは…後でね!」
柊は照れくさくて「…ありがとう」ってだけ返したけど、
瑶季の笑顔を見たら、自然と口元が緩んだ。
2人は並んで歩きながら、いつものファミレスへ。
今日は勉強じゃなくて、ただ話すだけ。
卒業式の思い出、受験の振り返り、高校生活の想像、そして「これからも毎日話そうね」という約束。
時間はあっという間に過ぎて、
夕陽が窓をオレンジに染める頃、
瑶季がぽつりと言った。
「柊くん、15歳もよろしくね。これからも…ずっと、一緒にいて」
柊は頷いて、
「…うん。瑶季も」
って返した。
言葉は少ないけど、
2人の間には、もう言葉以上のものが流れていた。合格発表はもうすぐ。
でも今日だけは、
結果なんて関係なく、
ただ、瑶季と一緒にいることが、
柊にとっての最高の誕生日プレゼントだった。




