98. 海の離宮編(11) 宝物庫
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
バサルク王宮宝物庫。
ピレイが鍵を回して、大きく重い扉を近衛と開けた。
棒を引っ張ると、天窓の覆いの板がずれて、暗い大空間に少しだけ光が差し込んだ。
大型の棚がずらりと並んでいた。
「オーニチェ様、こちらです」
ピレイが箱を運んできて、蓋を開けた。
わずかばかりの光しかないのに、紫色の様々な宝石が夜空の星のようにキラキラと輝いていた。
オーニチェは宝石を見下ろした。
オーニチェとペルラの婚約話が持ち上がってから、王太子妃用の宝飾一式を仕立てるために、少しずつ買い集められてきた宝石だった。
「バサルクの金とムーンストーンの銀です」
ピレイは金と銀の延べ棒を持って来ると、宝石の隣に並べた。
「ディアバス様用の剣はこれですか?」
「そうだな。それしかないな」
オーニチェが成人した時、父王は一つの鋼を分け、兄弟のために二振りの短剣を誂えた。
一振りは、オーニチェがいつも腰に差している。
オーニチェは、ピレイが運んできた短剣を抜いて感触を確かめると、また鞘に収めた。
「王太子妃用の宝飾の図案は破棄して、新しく第二王子妃の宝飾一式として作ってほしい」
「承知しております。あと、ディアバス様の剣に、ペルラ様と揃いの装飾ですね」
「そうだ。
オア家からも人を出してもらって、すまない。助かる」
ペルラとディアバスは、ベルデと共にコンミフォラ家の船で帰ることになっていたため、とにかく時間がなかった。
王室宝飾師だけでは到底間に合わず、ピレイのオア家からも金工師と彫金師が呼ばれることになっていた。
「いえいえ、お気になさらずに。
王家の婚礼宝飾品に関われるのは我々の職人にとっても光栄なことです。
ただ、願わくば」
ピレイはオーニチェを見た。
「私は王太子妃の宝飾一式を作りたかったですけどね……」
オーニチェもピレイを見た。
「……お前な」
「どうせ誰も聞いてませんよ」
オーニチェとピレイはしばらく黙って宝石と剣を見ていた。




