95. 海の離宮編⑧ 再訪
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
「今日は何の用だ?
私もヒマじゃないんだぞ」
王宮の王太子執務室で、オーニチェは、昨日に続いてやって来たディアバスと会っていた。
「兄上、すみません。
でも、ペルラが『結婚する』と言ってくれたんです!」
「そうかそうか、結婚する……
え? ペルラが? ディアバスと?」
オーニチェは立ち上がりかけて、座り直した。
「はい」
ディアバスはうなずいた。
「おめでとう」
「ありがとうございます……」
「何かあまり嬉しくなさそうだな?」
オーニチェは、ディアバスの横に座ると、ピレイが運んできたお茶を飲んだ。
オーニチェが一番好きなお茶だった。
「いえ、すごく嬉しいんですけど……
ペルラは、新しい相手に会うのに疲れたと言っていました」
ディアバスもお茶を一口飲んだ。
「続けてなのだから、疲れもするだろう」
「僕を選んだのは、長く一緒に暮らして気心が知れているからで、僕のことを好きだというのはペルラの勘違いかもしれないと思うんです」
「なるほど」
「ペルラはミリスのことをきちんと検討したわけではないと思うんです。
友達のルビーの兄だとは認識していますが、優秀な武官だとは思っていないでしょう。
一方、僕は領地もありませんし、仕事も決まっていません」
そもそも、その時点で、ペルラは自分宛の手紙すら読んでいなかったのである。
ディアバスは固い表情で続けた。
「それに、ペルラは『のんびり平和に暮らしたい』と言っていました。
僕は人質で、安定や平和とは程遠い身分です。
今までベトーラ家で穏やかに過ごせたのは運が良かっただけというのを、ペルラは分かっていないかもしれません」
「そうか」
「ペルラはミリス様と結婚した方が幸せなのかもしれません。
僕と結婚すると言ってくれたのは、勢いだったのではないかと……」
ディアバスはうつむいた。
オーニチェは気づくとお茶を飲み干していた。
視界の端でピレイが合図をした。
次の予定の時間が迫っていた。
オーニチェは口を開いた。
「勢いでもいいではないか。
ペルラは、お前がいいと言った。それで十分だ。
悩むのは後でもできる」
オーニチェはディアバスの耳元で言った。
「欲しいなら、逃すな」
ディアバスは顔を上げて、オーニチェを見た。
オーニチェは立ち上がると、執務机に戻った。
「ピレイ、ベトーラ家のベルデ様に手紙を。
それから、ムーンストーン王都の公使に急ぎ指示を。
国王陛下に、ディアバスとペルラの結婚の許可を願い出るよう、伝えてくれ」




