92. 海の離宮編⑤ 四人の食卓
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
離宮の食卓に、ペルラ、ディアバス、オーニチェ、ピレイがそろった。
意外にもこの四名で食事をするのは初めてだった。
さわやかな潮風がレースのカーテンを揺らしていた。
「私のせいで、ディアバス様がムーンストーンに戻ることになり、申し訳ありません」
ペルラが頭を下げた。
オーニチェとペルラが結婚すれば、オーニチェが父王から王位を継承することにムーンストーン王も同意し、さらにディアバスは人質の身分から解放されることになっていた。
人質解放は、ムーンストーン人のペルラがバサルク王妃になるのと引き換えということである。
「謝ることはない、ペルラ。
ペルラのせいではない」
オーニチェはペルラに微笑んだ。
「むしろ、ムーンストーン王家とバサルク王家が、あまりに多くを望み、ペルラに負担をかけ過ぎたと言うべきであろう」
オーニチェの言葉に、隣でピレイがうなずいた。
「今までどうにかなったのだから、これからも何とかなる。心配はいらない」
オーニチェはペルラとディアバスに優しく言った。
ペルラは目を伏せた。
少しして、ピレイが口を開いた。
「ベルデ様がバサルクにいらっしゃるのですよね?」
「はい」
ベルデは、体調不良の妹ペルラを迎えに来ようとしていた。
しかし、ムーンストーンとバサルクの間には定期航路がなく困っていた。
それが結局、コンミフォラ家の船に乗せてもらえることになったのだった。
コンミフォラ家といえば、ペルラの友達のイグニスの家である。
コンミフォラ家は海上油田の機械の保全のため、年に一回バサルクに船を出していた。
「では、ディアバス様とペルラ様がバサルクにいらっしゃるのも、あと一、二ヶ月ですね」
ディアバスも、ベルデとペルラと一緒にムーンストーンに戻ることになっていた。
「そうですわね……」
「寂しくなるな」
オーニチェは言うと、グラスを傾けた。
「ペルラ様は今後どうなさるのですか?」
「そうですね……
兄は、家で半年ほどゆっくりしたら、と申しておりますの。
その後は、婚活のやり直しでしょうか?
私にうまくできるかわかりませんが、貴族の娘として頑張らないと……」
ペルラは笑いながら横のディアバスを見たが、ディアバスは少し寂しそうで笑っていなかった。
オーニチェの声がした。
「ペルラは絶対うまくいく」
ペルラはオーニチェを見た。
「そうですよ」
ピレイも力強くうなずいた。
オーニチェが不意にディアバスを見た。
「ディアバスはどうするのだ?
ディアバスもそろそろ成人だから、ベトーラ家を出なければならないだろう」
「……」
ディアバスは言葉が出てこなかった。
自分でもびっくりするほど、頭が真っ白であった。
「まぁ、ディアバス様は身分が難しいですから、なかなか……
これは落ち着いて考えないといけないですね。
文化交流の仕事とかですかねぇ」
ピレイが助け舟を出した。
「そうですね、考えないといけないですね……」
ディアバスは声を絞り出した。
オーニチェとピレイの言うことはもっともだった。
しかし、全く現実味がなかった。
ベトーラ家を出て、ペルラもベルデもいない場所で暮らしていくのだろうか。
ペルラが結婚して、ベルデも結婚するだろう。
自分も誰かと結婚して家庭を持つのだろうか。
想像できないし、自分が結婚したいのかもわからないし、人質でありながら許されるのかもわからなかった。
「ディア」
腕が軽く叩かれて、聞き慣れた優しい声がした。
「次のお皿が来てるわよ」




