90. 海の離宮編③ 晴れ
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
オーニチェは窓からぼんやり海を見ていた。
忙しい政務の間を縫って、週に一、二回は離宮に来ている。
海の離宮は、昔の王が異国趣味で建てたムーンストーン様式の白い石造りの宮殿だった。
今日はいつもより少し早く着いたため、ペルラとディアバスはまだ戻っていなかった。
王宮は雨だったが、海の離宮は晴れていた。
青い空に白い雲が流れていた。
水平線のあたりに、ムーンストーン王国の陸地が見える日もあるが、今日は見えなかった。
少し遠くに、海上油田の建物が小さく見えた。
眼下の砂浜に2人の人影があった。ペルラとディアバスだろう。
ペルラは波打ち際で踊るように行ったり来たりしていた。
認めたくはないが、ピレイの転地療養案は正解だったようだ。
「オーニチェ様。
今ディアバス様とペルラ様を呼んでいますので、もう少しお待ちください」
ピレイが部屋に戻ってきて言ったが、オーニチェは返事をせず、窓の外を見ているままだった。
ピレイもオーニチェの隣に来て、窓の外を見た。
「ペルラ様もあんなにお元気になられて」
「……」
「オーニチェ様?」
「どうして……
どうして王宮には海がないのだろうな?」
オーニチェは静かにピレイを見た。
どうして本拠地に海がないのかと言っても、もともと森の民であるバサルク人には無茶な相談である。
そんなことはオーニチェも百も承知のはずだった。
「オーニチェ様、今日は久しぶりに私の剣をお貸ししましょう」
ピレイは微笑むと、自分の腰から短剣を帯ごと外して、オーニチェの腰につけた。
オーニチェの漆黒の剣の下で、ピレイの華麗な金細工の剣が光った。
「オーニチェ様なら大丈夫です」
「うん……」
「私も……私の剣もついています」
今日はこれから、オーニチェがペルラに正式に婚約破棄となったことを説明する手はずになっていた。
ピレイとディアバスは部屋の外で待機する予定だ。
「さあ、あちらで座って、お茶を飲んで待ちましょう」
ピレイはオーニチェを窓から引き剥がした。




