83. バサルク王宮編(26) 奥宮
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
「ペルラは?」
奥宮の部屋の寝台にペルラがいなかった。
オーニチェはテラスに目を走らせた。
誰もいない。
寝台ははじめから主人がいなかったように、きれいに整えられていた。
侍女もいない。水も薬もなかった。
香煙の炉の火は落とされていた。
「……ペルラは?」
オーニチェはピレイを振り返った。
ピレイはオーニチェをじっと見た。
「ペルラ様はいません」
ピレイは頭を下げた。
「いないとは?
ペルラをどこにやった?」
オーニチェはピレイの肩をつかんで、声を荒げた。
ピレイが人払いをしているのか、誰も来ない。
「殿下。昨日も申し上げましたが、ペルラ様はこのバサルク王宮では体調が改善しません」
ピレイが静かに言った。
「そんなの……お前が決めることか!」
「侍医とムーンストーンの使者もそう申しております」
「そういう可能性もあるという話だろう!
少しは食べれているではないか……」
「殿下、冷静にお考えください。
あれだけの量では弱るばかりです」
「ピレイ! お前は……
お前だけは違うと思っていたのに!」
オーニチェはピレイを床に押し倒すと、腰の剣を抜いた。
ピレイは剣を抜かず、ただ黙ってオーニチェを見ていた。
「私からペルラを奪うのか! ディアバスを奪うのか!」
叫ぶと、オーニチェは剣を振り下ろした。
ピレイは目を閉じた。
その瞬間に、金属音がして、オーニチェの剣は逸らされた。
ヴィレンスだった。
「お前は、ムーンストーンの使者の護衛か?
どういうことだ?」
ヴィレンスは何も話さず、ピレイの前で剣を構えたままだった。
ピレイは姿勢を直して、床に跪いた。
「殿下。
ムーンストーン王家は、ペルラ様を帰国させ、本国で療養していただくことを希望されております」
「この間、聞いた」
「ペルラ様に、万が一のことがあれば、バサルク王家にとってもムーンストーン王家にとっても重大な問題となります」
「それがどうした?」
ピレイは顔を上げた。
オーニチェは、ピレイの前に立つヴィレンスに斬りかかった。
剣がぶつかる鈍い音がした。
「いつも、いつも!」
剣を打ち合わせながら、オーニチェが叫ぶ。
「ムーンストーン王国も、バサルク王国も!
私から全てを奪う!」
オーニチェとヴィレンスがパッと離れた。
「ピレイ!
もう、全部終わりだ!」
オーニチェが剣を高く振り上げた。
ヴィレンスが構えた瞬間。
「どけ! オーニチェ様になら殺されてもいい!」
後ろでピレイが叫び、前に出てくる気配がした。
打ち合わせと違う言動に、ヴィレンスの剣が遅れた。
オーニチェの剣が振り下ろされて、ヴィレンスの剣を折った。
大きな破裂音がして、刃先が宙を舞った。
オーニチェが一瞬止まったのを、ヴィレンスは見逃さなかった。
ヴィレンスはピレイをつかむとテラスに走って、飛び降りた。




