77. バサルク王宮編(20) 王子様
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
王宮への襲撃以来、ペルラは高熱を出して寝込んでいるらしい。
王宮の使用人の間で噂になっていた。
侍医が頻繁に訪れるものの良くならず、もう五日目だ。
ディアバスはヴィレンスの部屋の前に立っていた。
来るつもりだったのかと聞かれれば、よく分からない。
自室にいても落ち着かず、少し歩こうと思って部屋を出た。
近衛を一人連れて廊下を歩いているうちに、いつの間にかここまで来ていた。
ヴィレンスに何か聞きたいことがあるわけでもない。
何かしてほしいわけでもない。
それなのに、帰る気にもなれなかった。
ディアバスは扉を見つめた。
後ろに控えている近衛も、黙っている。
ノックしようか。
いや、何と言う。
ディアバスが考えていると、不意に後ろから肩を叩かれた。
「そこで何してるの?」
「うわっ!」
振り返ると、ヴィレンスが立っていた。
「……お前、どこから来たんだよ」
「後ろ」
「そうじゃなくて」
ヴィレンスは少し笑った。
そのままディアバスの横を通り、自室の扉を開ける。
「入る?」
「……うん」
ディアバスは近衛を振り返った。
「ここで待っていてもらえるか」
「はい、殿下」
近衛を廊下に残して、ディアバスはヴィレンスの部屋へ入った。
扉が閉まった。
ヴィレンスは上着を脱ぐと、椅子の背に掛けた。
「で、どうした?」
「用は特にない、……と思う」
「……」
しばらくして、ヴィレンスは口を開いた。
「……何を言いに来たのかよく分からないけど、お前は王子様なんだから、できること色々あるだろ?」
「できること……」
「やってみればいいんだよ」
「……やってみる」
ディアバスは無意識に繰り返していた。
「バサルク追放、ムーンストーン出禁になるかもしれないけどな!」
ヴィレンスは、いたずらっぽく微笑んだ。
「でも安心しろ」
「どこが?」
今の話に、一片でも安心材料があっただろうか。
「ムーンストーン国王陛下は、そういう者にも新しい名前を与えてくださるからな」
「え……」
「毎回じゃないけどな。割と大丈夫だよ」
ヴィレンスは何かを思いついたのか、笑った。
「あ、悪い。
名前なら、お前はもう貰ってたな!」




