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73. バサルク王宮編(16) フュージョン

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

バサルクへ来てから、ペルラは食事を残すことが増えていた。


ムーンストーンでは、香辛料をそれほど多く使わない。

一方、バサルクでは、さまざまな香辛料をふんだんに使う。


ペルラはバサルクの料理が好きだった。


香辛料の効いた肉も魚もおいしい。

初めて食べる料理も多く、食事の時間は楽しみだった。


けれど、なぜかあまり量を食べられない。


「もうよろしいのですか?」


侍女に尋ねられ、ペルラは皿を見た。


まだかなり残っている。


「はい。とてもおいしかったのですけど……もう、お腹がいっぱいで」


「では、お下げいたしますね」


「お願いします」


最近は、こんなことが多かった。


それに、朝になっても疲れが取れない日が増えていた。


王族教育も、頑張ろうという気持ちはあるのだが、ついぼんやりしてしまう。



午後には侍医がやって来た。


脈を取り、いくつか質問をしたあと、侍医は言った。


「今のところ、大きな異常はなさそうです」


「そうですか」


「慣れない環境でお疲れなのかもしれません。少し生活を調整してみましょう」


侍医は室内を見回し、香炉に目を留めた。


「まず、香煙を少し薄くしましょう」


侍女が意外そうに顔を上げた。


「薄く、ですか?」


「ええ」


「このくらいは普通かと思っておりました」


「王宮では普通です。ただ、ペルラ様には少し強いのかもしれません」


「そうなのですか。いい香りでしたけど」


ペルラは侍女に微笑んだ。


「香炉はそのままで構いません。香木を少し減らしましょう」


「承知いたしました」


「それから、お食事も少し変えてみてはいかがでしょう」


「食事ですか?」


「ムーンストーンでは、こちらほど香辛料を使わないのでしょう?」


「はい」


「しばらく、ムーンストーン風のものを用意してもらいましょう」


ペルラは少し驚いた。


「そこまでしていただかなくても……」


「食べる量が減っていますからね。試してみましょう」


そう言われれば、断る理由もなかった。



翌日の昼食を見て、ペルラは内心驚いた。


――見覚えがある……ような気がする、何か別の物だわ。


「ムーンストーンのお料理を参考にしたそうです」


侍女が言った。


ペルラはもう一度、謎料理の皿を眺めた。


笑っては申し訳ない。


きっと厨房の人たちが、自分のために一生懸命考えてくれたのだ。


「いただきます」


魚を一口食べた。


「…………」


あまり、おいしくなかった。


香辛料を控えようとしたせいか、全体の味が妙にぼんやりしている。

魚の生臭さが時折顔を出す。


普段のバサルク料理はあんなにおいしいのに。


「いかがですか?」


「……ずいぶん工夫してくださったのですね」


「はい。料理長が、ムーンストーンのお料理についていろいろ調べたそうです」


「そうなのですね……」


ペルラはもう一口、魚を食べた。



ムーンストーン風の謎料理は、その後も何度か食卓に並んだ。


数日後、侍女がおそるおそる尋ねた。


「ペルラ様。お食事は……いかがでしょうか」


「皆様がいろいろ考えてくださって、本当にうれしいです」


それは本心だった。


ペルラは少し考えた。


「でも、いつも通りで大丈夫ですよ。バサルクのお料理、おいしいですよ」


「本当ですか?」


「はい」


侍女の顔がぱっと明るくなった。


「では、料理長にもそう伝えてまいります」


「お願いします」


翌日から、食卓は元のバサルク料理に戻った。



「休み休みでいいんですよ。ペルラは頑張り過ぎです」


オーニチェは笑った。


「でも、まだ知らないことがたくさんあって」


「時間はいくらでもあります。大丈夫ですよ」


「ありがとうございます」


オーニチェはいつも優しかった。


王宮へ来てから、まだ日は浅い。


それでも、オーニチェがどれほど忙しいのかは、ペルラも知っていた。


父王の体調が優れないこともあり、朝からいくつもの報告を受け、人と会い、政務をこなしている。

王宮の中で顔を見かけても、たいてい誰かがそばにいた。


そんなオーニチェが、自分にはいつも、焦らなくていい、無理をしなくていいと言ってくれる。


「そうだ」


オーニチェは、従者から果物の籠を受け取ると、ペルラの前に置いた。


「今日はこれを持ってきました」


ペルラの顔が明るくなった。


「ありがとうございます。うれしいです」


ペルラは、一つ取って口に運ぶ。


「おいしい」


ペルラはもう一つ取ろうとして、ふと顔を上げた。


オーニチェはにこにことペルラを見ていた。


「オーニチェ様もどうぞ」


「そうだな」


オーニチェも果物に手を伸ばした。

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