↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
70/93

70. 【閑話】本

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

その日の昼、アルモンドは奥宮にいるペルラのもとを訪ねていた。


バサルク滞在中、アルモンドはムーンストーン国王の使者として、時折こうしてペルラを訪ねている。


護衛のヴィレンスも一緒だった。


しばらく話をしたあと、アルモンドとヴィレンスはペルラの部屋を辞した。


二人で奥宮の回廊を歩いている途中、アルモンドがふと思い出したように言った。


「そうだ、ちょっと頼みがあるんだけど」


ヴィレンスはアルモンドをチラッと見た。


「図書室で、本を二、三冊選んで借りてきてくれない?」


「……」


「行くとたくさん話しかけられて、全然ゆっくり選べないんだよ」


アルモンドは何度か王宮の図書室へ足を運んでいたが、ムーンストーン国王の使者であり、またムーンストーン王国サイデライト宰相の息子という立場もあり、居合わせた貴族たちから次々と声をかけられた。


話しかけられれば、無視するわけにもいかない。


「ちなみに、僕は推理小説が好き。

まあ、他のでも全然いいから。

お願いできないかな?」


ヴィレンスは頷いた。



その日の夕方。


アルモンドは机に向かい、報告書を書いていた。


バサルク滞在中に得た情報は、定期的にムーンストーンへ送っている。


向かいにはヴィレンスがいた。


「次は、ディアバスの近況、と。

最近は何やってるんですか?」


「王族教育とお見合いと武術鍛錬は、変わらず。

あとは今日から、ピレイ様の家で樹上移動の練習を始めた」


アルモンドはペンを走らせた。


「どうでした? 子供用の練習場でしたよね」


「苦戦してた。一回落ちてた」


アルモンドの手が止まった。


「落ちた?」


「だから、戻した」


「……戻した?」


アルモンドは顔を上げた。


「うん。結構高かったし、抱え上げて戻した。

でも、誰にも見られなかったから大丈夫」


「……」


アルモンドはしばらくヴィレンスを見ていたが、再び報告書に目を戻した。


そのまま、いくつかの報告事項を確認していく。


やがて一区切りついたところで、アルモンドはふと思い出した。


「そういえば、頼んでいた本は……?」


「あ」


「もしや忘れ……?」


「ちょっと待て」


ヴィレンスは立ち上がると、部屋を出ていった。



ヴィレンスは、その足でディアバスの部屋に向かった。


「読んでない本、ちょっと貸して」


「え? いいけど。お前が本? 珍しいな」


「……」


ディアバスの部屋には、王族教育のために用意された本が増え続けていた。


歴史、法律、外交、財政、軍事。


備え付けの本棚には収まりきらず、残りは床に積まれている。


「どんな本がいいんだ?」


ヴィレンスは床に積まれた本に視線を落とした。


「とにかくお前が使ってない本。上から三冊」


「上から三冊?」


ディアバスはヴィレンスを見た。


「まあ、いいけど」


ディアバスは上から三冊を取った。


「ほら、持ってけ」


ヴィレンスはそれを受け取った。


「ありがとう」


「おう」


ヴィレンスはすぐに部屋を出ていった。


ディアバスは閉まった扉を見つめた。


「……いきなりどうしたんだ、あいつは」



ヴィレンスが戻ったとき、アルモンドは再び報告書に集中していた。


ヴィレンスは持ってきた三冊を、部屋の隅の小卓に置いた。


「本、ここに置くぞ」


「ああ、ありがとう」


アルモンドは書類から目を上げなかった。


「返す時言って。俺が返すから」


「え? いいの?」


アルモンドが顔を上げた。


「ありがとう。ヴィレンスは親切だな」


「……」



アルモンドが報告書を書き終えたころには、すっかり夜になっていた。


「……ようやく終わった」


アルモンドはペンを置き、大きく伸びをした。


そこで、小卓に置かれた三冊の本が目に入った。


「ああ、そうだった」


せっかく借りてきてもらったのだ。


少しくらい読んでから休もう。


アルモンドは三冊を机まで持ってくると、一番上の本を手に取った。


『王権と統治機構――地方行政および徴税制度に関する基礎論』


――思っていたより、だいぶ堅い。


もちろん、知らないよりは知っていた方がいい。


ただ、今読みたかったかと聞かれると、話は別だ。


アルモンドは二冊目を手に取った。


『近代バサルク王国における財政制度と王室領経営』


――これも堅い。


アルモンドは最後の一冊に手を伸ばした。


『諸外国との条約締結および外交儀礼に関する実務概論』


――見覚えがあるぞ。


アルモンドは表紙をじっと見た。


間違いない。


サイデライト家の書斎にある。


「これ、うちにあるやつだし……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。