68. バサルク王宮編(12) 武術教師の悩み
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ディアバスの担当になった武術教師は悩んでいた。
ディアバス第二王子は兄オーニチェ王太子同様、恵まれた体格をしていた。
だが経歴が特殊だった。
三歳から隣国ムーンストーンで育ち、長剣と騎士式の戦闘を叩き込まれている。
実際、長剣はかなり仕上がっていた。
実戦経験さえ積めば十分通用するだろう。
だが、バサルクの戦い方はまるでできなかった。
短剣そのものも初めてだったが、それ以上に、バサルク人なら幼児でも身につけている樹上移動がまるでできない。
不安定な足場や高所そのものに慣れておらず、移動にも落下対応にも苦戦していた。
本来なら、樹上移動を覚えてから短剣、さらに一部の者が長剣に進む。
長剣だけが完成しているディアバスは、武術教師にとって初めてのタイプの生徒だった。
「そこで我々に実際の様子を見てほしいということですね」
オーニチェの横で、ピレイは武術教師に確認した。
武術教師の指示に従い、ディアバスはまず巨木に取り付いた。
まずは移動である。
「ディアバス殿下、隣の木に移ってください」
しかし、ディアバスは足を伸ばしたり戻したりするだけで、全く動けなかった。
「何だ、あれは?」
オーニチェは眉をひそめた。
◇
3分後。
ディアバスは全く移動できておらず、オーニチェとピレイは頭を抱えていた。
「経路が読めていないのです」
武術教師は言った。
「足場を選ぶのも遅い。
それに、高所そのものに慣れておられません」
「……よくわかった。
ディアバスを下ろせ」
オーニチェは額を抑えると、うめいた。
「うちで練習しますか?
子供のために練習場を作ったんですよ。
大人の体重にも耐えられる強度にしてありますよ」
ピレイが言った。
王宮には今子供がいないため、手頃な練習場がなかった。
かと言って今から造っていては時間がかかってしまう。
「それはありがたい」
オーニチェはうなずいた。
横で武術教師もうなずいた。
ディアバスも黙って後ろで小さくうなずいた。
武術教師が口を開いた。
「あと、短剣ですが、体格の近いオーニチェ殿下の剣を見れば、何か気づきがあるかもしれないと思いまして……」
「なるほど。
何か掴めるかもしれないな」
オーニチェはディアバスをチラッと見た。
ディアバスは黙って小さくうなずいた。
オーニチェは明るく言った。
「よし! ピレイ! 久しぶりにやるか!」
「嫌です」
ピレイは即座に答えた。
「……」
「オーニチェ様とやると、手が痺れるんです。
私は文官ですし」
ピレイは鍛錬場の入り口の近衛に手を振った。
「近衛、誰かー!」




