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66. バサルク王宮編⑩ 短剣

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

ディアバスの短剣の木剣が、床に落ちた。


「ああ」


ディアバスの声が漏れた。


今日もヴィレンスと剣の練習だ。



ディアバスは短剣戦に不慣れだった。


彼がバサルクを離れたのは三歳の頃であり、ムーンストーン式の長剣訓練で育っている。


先日バサルクへ帰国してから短剣訓練を始め、最近は短剣ばかりやっているが、至近距離で細かく捌く短剣術はなかなか身体に馴染まなかった。


しかし本来、短剣はバサルクで極めて重要な道具である。

樹上国家では、短剣は蔓切りや網補修だけでなく、転落時の落下停止や、吊り橋切断にも使われる。

吊り橋は老朽化時には切り離され、戦闘時には侵入経路ごと落とされた。


そのため、バサルクの男性は皆短剣を持ち歩き、その扱いにも習熟していた。

バサルクの王子でありながら、短剣戦が苦手では格好がつかない。


ヴィレンスが笑った。


「お前、俺よりムーンストーン人だな」


「……反応に困ること言うな」


ディアバスも笑うしかなかった。


ヴィレンスは長剣だけではなく、短剣も非常に上手であった。


「ヴィレンスの専門は? 実は短剣なのか?」


「専門なんてない」


「ない?」


「ある物を使うだけだ。

例えば、鍋とおたまでもいい」


「……鍋とおたまでもいい、って、それで大丈夫なのはお前だけじゃないか?」


強いヤツの言うことは時々おかしい。


さすが大ムーンストーン王国の王太子専属護衛である。


「いや、お前もできる」


「……鍋?」


「違う。

最近、長剣やってないだろ」


ヴィレンスは、片手に短剣、片手に長剣を持つと、ニッコリ笑った。


「やれ、両方とも」

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