64. バサルク王宮編⑧ 兄弟
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
「ディアバス殿下のお見合いが不調です」
補佐官のピレイは、オーニチェ王太子に執務室で報告した。
「候補となる家柄の令嬢とは、すでにほぼ全員と会いました」
ディアバス第二王子は、三歳から人質としてムーンストーン王国で育っていた。
国内に人脈を作るためにも、バサルク貴族との結婚が望まれていた。
ただし、バサルク貴族なら誰でもいいわけではない。
バサルク貴族と言っても、バサルク王家をはじめ、アルマンディン大陸に由来する家柄も半分ほどある。
故王妃もアルマンディン貴族の出身である。
先の戦争では、バサルクもアルマンディン側につく形になり、ムーンストーン王国と敵対した。
これ以上バサルク王家のアルマンディン色を強めれば、ムーンストーン王家を刺激しかねない。
そのため、ディアバスの結婚相手には、できればバサルク土着の家柄の貴族令嬢が望ましかった。
「だいぶ会ったな」
「そうですね、週に三から五人と会っていただきました」
「ダメか」
「はい。ただし侍従や令嬢方の話では、明確な拒否というわけではなく、ただ毎回沈黙が多いようです」
「初対面の男女なのだから沈黙でもおかしくないだろう」
ピレイはオーニチェを見た。
「オーニチェ様は? ペルラ様といかがでしたか?」
オーニチェは短剣に最近付けた組紐の飾りを触った。
「まあ、もう少し話したかもしれない……」
「そうですよね。初対面という問題ではないと思います」
オーニチェは椅子に深く座り直した。
「……ペルラが問題だと?」
「もしかしたら」
ピレイはうなずいて言った。
オーニチェは考えた。
ペルラはディアバスに対して面会を何度か申請していたが、すべて棚上げになっていた。
一方、ディアバスがペルラに対して面会を申請したことはなかった。
「確認だが、ペルラとディアバスは恋人ではなかったよな?」
「はい。ムーンストーン王家の話でも、こちらの調べでも、二人は恋人ではありませんでした」
「では、なぜだ?
なぜディアバスは令嬢方に心が向かないのか?」
ピレイはペンの持ち手でオーニチェを指して、ペンを軽く振った。
「家族。家族ですよ」
「家族?」
「はい。ディアバス様とペルラ様は実の兄妹のように育ったと聞いております。
ペルラ様がオーニチェ様と仲良くなられて、ディアバス様はお寂しいのでは?」
「……そこで女性ではダメなのか?
妻を娶って家族を作るのは?」
ピレイはため息をついた。
「知りませんよ。私の弟じゃありませんし」
「……私の実の弟だが、私だって十何年会っていなかったんだぞ?」
オーニチェも、弟との接し方が正直よくわからなかった。
「とにかく。まず、ディアバス様には、国王陛下に会っていただきましょう」
「あー……父にな。そうだな」
最近父王は物事の理解にムラがあり、執務に支障を来すようになっていた。
ディアバスが来ても、父王がディアバスと認識できるかはわからないが、親子なのだから一度は会うべきであろう。
父王もこうなるまではずっとディアバスのことを気にかけていたのを、オーニチェもピレイも知っていた。
「それから! オーニチェ様にはディアバス様と朝食を一緒に食べていただきます」
「朝食?」
藪から棒の提案に、オーニチェは聞き返した。
しかも、ピレイの口ぶりでは、もはや決定事項のようである。
「はい。週に二回程度がいいでしょう」
「朝から? 週二回? ずっと?」
ピレイはにっこりうなずいた。
「昼食は時間の調整が難しいですし、夕食は社交があります。朝食しかありません」
「私の自由時間……」
「王太子に自由時間などありません!」
ピレイは机の上の書類をまとめた。
「あ! ペルラ様との毎日のお茶。あれを二日に一回にすれば、自由時間が捻出できますね? そうしますか? もう毎日でなくていいでしょう」
「うぅ、やめてくれ、ピレイ。私は働く……」
うめくオーニチェを横目に見ながら、ピレイは立ち上がった。
「それはようございました。
ではオーニチェ様、次は五分後に謁見の間です」




