63. 【閑話】お茶の作法
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
「バサルクのお茶の作法って、難しいですね」
ペルラが言った。
午後のお茶の時間だった。
向かいに座っていたオーニチェが、不思議そうにペルラを見る。
「そうか?」
「はい。今日の王族教育で習ったのですが、正式な場では、お茶を飲む前に茶器を三回持ち上げるのですね」
近くで書類を確認していたピレイが、顔を上げた。
「……三回?」
「こうですよね?」
ペルラが両手で茶器を持ち、少し持ち上げてみせる。
「違います。それはアルマンディン流です」
「え?」
「バサルク流ではありません」
ピレイはきっぱりと言った。
「でも、今日の先生が、バサルク王宮の正式な作法だと……」
「誰ですか、そんな教師を選んだのは」
「手配したのはピレイだろう」
「…………」
ピレイは少し黙った後、オーニチェに言った。
「……ハンコを押したのはオーニチェ様ではありませんか?」
「…………」
「…………」
オーニチェとピレイは、顔を見合わせた。
「それより、それはアルマンディン流なのか?」
オーニチェが話を戻した。
「母上も、いつも三回持ち上げていたぞ」
「王妃様のご実家は、アルマンディン貴族でしょう」
「ああ……そうだったな」
「そうだったな、ではありません」
ピレイはため息をついた。
「王家では昔からアルマンディン流の作法も多く取り入れています。
だからといって、アルマンディン流をバサルク流として教えられては困ります」
横から、ペルラが質問した。
「では、ピレイ様のお家では、違うお作法なのですか?」
「ええ。オア家ではバサルク流を守っています」
「オア家は古いからな」
オーニチェがお茶を飲みながら言った。
「バサルク家が王家になる前は、オア家が王を出していたんだ」
「……あの……そうらしいですね」
王家の交代そのものは、王族教育の歴史の授業でペルラも聞いていた。
ペルラはオーニチェとピレイを見比べた。
オーニチェが楽しそうに笑った。
「バサルク家がどうやって王家になったか、今度、私が話してやろう。
どうせ教師は話していないのだろう?」
「はい」
「ピレイがいない時にな。ハハハ」
「あ、あの……」
ピレイは無言でオーニチェを見た。
それからペルラの方へ向き直って、微笑んだ。
「ペルラ様」
「は、はい」
「バサルク家がどうやって王家になったか、今度、私もお話しして差し上げますね」
「はい」
「オーニチェ様がいない時に。フフッ」
「はい、あの……えっと……」
ペルラはちらりとオーニチェを見た。
オーニチェは何も言わず、ピレイを見ていた。
ピレイは悠々と、バサルク流の作法でお茶を飲んだ。
オーニチェは思わず笑い出した。
〜閑話 おわり〜




