55. ジュニパー編(12) 目覚めて
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
「じゃあ、私、絵のモデル中に寝ちゃったの?」
翌朝、目覚めたペルラはディアバスに質問した。
ディアバスはテーブルに朝食を並べていた。
「まあ、そうだな」
「えっ? じゃあ、どうやって帰ってきたの?」
「俺が運んだ」
「え? ディアが?
ごめん。重かったよね? 起こしてくれればよかったのに」
「いや、大丈夫だ。気にするな」
ディアバスはこの会話を早く終わらせたかった。
「ペルラ、卵は……」
「あ〜、嫌! いくら取ってもピンが出てくる」
ペルラは髪を手ですいた。
昨夜すでにディアバスが気付いたヘアピンは抜いていたが、まだまだ出てきた。
ジュニパーの所のヘアセットの係はヘアピンをいつも大量に使った。
「あ!」
ペルラは動きを止めた。
「ジュニパー様に謝らなきゃいけないんじゃない?
途中で寝てしまって、ごめんなさいって」
ディアバスはフォークを思わず握りしめた。
「いや、いいだろう。あんなに長い時間モデルをしていたら疲れるのは当然だ」
――しかも、あんなにコルセットを締め上げて、息もつけなかっただろう。
ディアバスは、昨夜ペルラを寝かせる時に、コルセットをゆるめてやったが、あまりにきつくて、解くのに苦労した。
ジュニパーの使用人はどれだけ怪力なのか。
「そうかなあ? 第二王子殿下だよ? 一応謝っておいた方がいいような気がする……
私、後で行ってくる!」
ディアバスは、ペルラがムーンストーン王家を恐れる気持ちがよく分かった。
ベトーラ家のような中堅貴族にとって、王族の機嫌を損ねるのは大問題だ。
「行くな」
大きな声に、ペルラは驚いて、ディアバスの方を見た。
ディアバス自身も、自分が出した声の大きさに驚いていた。
椅子に座っているペルラの横で、ディアバスはかがんで、床に片膝ついた。
ペルラの目をじっと見る。
「お願いだ。もうあの部屋には行くな。二人で会うな」
真剣なディアバスに、ペルラは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐ顔から消えた。
ペルラもディアバスの目を見て、静かに答えた。
「……分かった。ディアが嫌なら、もう行かないし、二人で会わないよ」
ディアバスが言った。
「もしペルラが気になるなら、俺が代わりに謝ってくる」
ペルラの笑顔がはじけた。
「本当? お願いしていいの?」
◇
――なんであんなことを言ってしまったのか。
ディアバスは自己嫌悪に陥りながら、寮の中をあてもなくフラフラ歩いていた。
――ジュニパーに謝るって何だ?
――謝って欲しいのはこっちなんだが!
気づくと、寮の中を一周していた。
ディアバスがペルラの部屋に戻ると、ペルラは珍しく台所に立っていた。
「おかえり。ジュニパー様、怒ってなかった?」
「……うん」
「良かった〜! ディア、ありがとう!」
ペルラはディアバスに飛びついた。
「お礼に、今日のごはんは私が作ったよ。
さぁ! 何だか当ててみて?」
にこにこ顔のペルラの背後で、オーブンから焦げた匂いがしていた。




