54. ジュニパー編(11) 満月
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
突き当たりの部屋に、ヴィレンスに続いて、ディアバスも入った。
部屋はアトリエだった。
一面の大きな窓を通して、満月の光で満たされており、夜とは思えない明るさだった。
座って微笑んでいるペルラの大きい絵がイーゼルにあった。
その奥、窓際のソファで、ペルラがドレスのまま横になって寝ていた。
何もかけておらず、風邪をひきそうだ。
ディアバスがペルラに駆け寄ろうとすると、部屋の隅の暗がりから声がした。
「起こさないで」
ジュニパーがいた。
一人掛けのソファでくつろぎながら、ペルラを見ていたようだった。
傍らのグラスは半分ほど空になっていた。
「朝からモデルをしてくれて、疲れてしまったんです。寝かせてあげてください」
ジュニパーは立ち上がると、ディアバスのそばに来た。
「月の光の中のペルラは、いつもにも増してきれいですね。
アーバス様もそう思いませんか?」
「え、ええ……」
アーバスことディアバスがペルラに目を落とすと、左手に何か白い包帯のような物が巻かれていた。
「殿下、この白い物は……?」
「ああ、石膏で型取りしているんです。
白さも影も……指の細さも、まっすぐな爪も、手と指の曲がる角度も、すべて完璧でした」
ジュニパーは目を細めた。
「今夜のペルラの左手をずっと覚えていたいんです」
ディアバスは思わずヴィレンスの方を振り返った。
ヴィレンスは口を開いた。
「ジュニパー殿下、今日はもう終わりです」
「ふふ、ヴィレンスは厳しいなあ」
「石膏は外してよろしいですか」
「待って!
僕が外す。
まだ柔らかいんだ。もう少し乾くのを待ちたかったのに、しょうがないなあ。
そっとそっと、優しく」
ジュニパーは石膏を外すと、型を手直しした。
ディアバスは思わずペルラの左手をさすった。
「大丈夫ですよ。ちゃんと油紙を挟んでいましたから、肌に石膏はついていません」
ジュニパーがディアバスに微笑んだ。
「そうですか……」
後ろからヴィレンスが口を出した。
「殿下、ありがとうございました。
さあ、もう夜遅いですから、お休みください」
ヴィレンスがジュニパーを部屋の外へ誘導して、使用人に目で合図をする。
「わかったよ、ヴィレンス。寝るよ。
でも、ペルラは起こさないであげてよ」
「承知しました。寝かせたまま部屋に戻します」
ジュニパーは、ペルラの手の型をそっと抱いたまま、部屋を出て行った。
ヴィレンスはディアバスを見た。
ディアバスは床に膝をつくと、ペルラを引き寄せて、ゆっくり抱き上げた。




