49. ジュニパー編⑥ 宝石
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
先日の宝石店の届け物は、目撃した生徒が多かったようで、アクアの情報によると、ぺルラは寮で少し話題になってしまっているようだった。
王立学校の生徒はほとんど全員貴族だが、大多数は中堅貴族や下級貴族である。
下級貴族に至っては、庶民に近い生活状況の家も多い。
そんな生徒にしてみれば、王族御用達の超高級宝石店なんて人生で一度行くか行かないかの世界である。
ディアバスはため息をついた。
こんな話が広まってしまっては、うまくいく婚活もうまくいかない。
ぺルラがジュニパー第二王子の妃になるなら、話が広まっても痛くも痒くもないが、どう見てもベトーラ家はその格ではない。
かと言って、ぺルラを側妃にしようという強い意思も、別にジュニパーからは感じられない。もっとも、側妃では、ぺルラの兄ベルデが反対しそうだが……。
婚約者でもなく結婚確定でもないなら、この大量の宝石はどうすればいいのだろうか。
ベルデに報告したが、ベルデも困惑するだけで打開策は出なかった。
ディアバスはバルコニーに目をやった。
ぺルラは今日も草いじりに精を出しているようだった。
――なぜ、ぺルラではなく、俺が悩んでいるんだ……?
◇
「こんにちは~!みんな、元気?」
イグニスがぺルラの部屋にやってきた。
ぺルラがバルコニーから戻ってくる。
「イグニス様、こんにちは。元気ですわ。イグニス様はいかが?」
「おかげさまで元気だよ」
「よかったですわ」
元気な二人を、部屋の隅の椅子に座ったディアバスはぼんやり見ていた。
「ぺルラ、見て! 卓上鍵盤を作ったよ! あげる!」
包みを開けて、卓上鍵盤を取り出した瞬間、イグニスの紫色の瞳がわずかに明るくなった。
「わあ、すごい!すごいですわ、イグニス様!天才ですわ」
「いや、そんなことないけど。
見て!ピアノと同じ鍵盤だよ。でも、弦共鳴がないから、打楽器に近いかな。音は伸びない」
ぺルラは卓上鍵盤を弾いてみた。鍵盤を叩くと、金属の澄んだ音がした。
「きれいな音!
これで音楽室に行かなくて済みますわ。音楽室が遠いし、借りるのが面倒くさくて」
「ぺルラ、そう言ってたもんね。
厳密に言えばピアノとは別物だけど、これも練習に使ってよ」
「はい。どうもありがとうございます」
その時、イグニスは部屋の隅の人物に気づいたようだった。
「アーバスはどうしたの?」
◇
「これか~」
イグニスは、ぺルラとアーバスが並べた宝石の装飾品を見た。
ジュニパーから贈られた宝石だ。
「確かに少し多い気もするけど……別に普通って気もするし」
「普通??」
ディアバスは聞き返した。
幻聴だろうか?
「アーバス、店の商品全部ってことはないよ。あそこの店でしょ? せいぜい棚一つくらいだと思う」
「棚一つ!」
それだけでも十分すごい。
そして、イグニスは普段の奇行が目立って忘れがちだが、やはり大貴族アデュラリア家に次ぐ名門貴族のコンミフォラ家の跡取りなのだと、アーバスことディアバスは再認識した。
「それに、宝石の数は多いけど、石は小さいから、そんなに高くないと思う。
大きい石もいくつかあるけど……」
イグニスはネックレスを手に取ると、真ん中の宝石を光に透かした。
「大きいけど、よく見ると端の方に内包物とヒビがあるから、評価はまあまあだと思う」
「まあまあ!?」
ディアバスは思わず声が大きくなってしまい、自分で口を抑えた。
「もちろん大きい石はサイズ自体に価値があるけどね。
それよりも、あまり見ないデザインが多いから、一点物がどれくらいあるかだね。
宝石自体より、工芸品としての評価が大きいと思う」
「……イグニス様は詳しいですね。正直驚きました」
ディアバスの中で、イグニスは装飾品から最も遠いイメージであった。
「詳しくもないけど、母が買い物する間に、あの店は色々な石を見せてくれるんだよ。
本当におもしろいよ」
「なるほど」
「だから、そんなに気にすることないんじゃないかな?
芸術的な評価は僕はわからないけど、宝石自体で言えば、僕のワニの方が高か……コホン!
とにかく、あまり気にし過ぎなくていいんじゃないかな、うん」
イグニスは、ぺルラの前でワニの話をするな、とアーバスに以前言われたことを思い出した。
幸い、ぺルラは、さきほどイグニスが光に透かしたネックレスを同じようにして、宝石を熱心に観察しており、ワニの単語に気づいていないようだった。
アーバスを見ると、少し視線が冷たい気がしたので、もしかしたらアーバスには気づかれたかもしれない。しまった。
そういえば、今度、ヘビやトカゲやアルマジロの話は大丈夫か、それも避けるべきか、アーバスに確認しておかないといけない。
※ワニの件は、【30. イグニス編⑤ 朝日】参照。




