4. 舞踏会編④ 馬車の中
馬車が王宮の敷地内に入ると、ペルラは自分の膝に置いた手を見下ろした。
今すぐ帰りたくなってきた。
向かいに座るベルデは、そんなペルラを見て、むしろ少しおもしろがっているようだ。
「そんなに緊張することはないだろう。陛下への挨拶以外はテキトーでいいんだよ」
「無理よ。緊張するわ」
ペルラは小さく答えた。
王宮も舞踏会も久しぶりである。
しかも、今日のドレスは、普段なら自分から選ばないような鮮やかなフューシャピンクだ。気後れする。
「……いつもの、もっと地味なドレスにしておけばよかったかもしれない」
「舞踏会で目立たない服を着てどうする」
「目立たなくても、結婚相手は探せるでしょう?」
「お前は話術で相手の印象に残るタイプじゃないだろ。だったら、せめて見た目くらい華やかにしておけ」
「ううっ……」
それを言われると、ペルラも反論できない。
貴族の娘として、自分もいずれ結婚相手を見つけなければならないことはわかっている。
ベルデが忙しい仕事の合間に縁談を考え、舞踏会へ出る機会まで作ってくれることにも感謝していた。
頭では、わかっている。
けれど、知らない人と次々に話すための気力も、会話を途切れさせずに続けるための器用さも、長い時間笑顔で立ち続ける体力も、なかなか追いついてこない。
「今日は頑張るわ」
「おう、期待してるぞ」
ベルデはニヤリと笑った。
「ね? ディア。今日は頑張るわよね?」
「え? 俺?」
突然話を振られ、ディアバスはうろたえた。すっかり油断していたのだ。
「そうよ。私が頑張るんだから、ディアも頑張るの」
「何を?」
「私を応援するのよ」
「俺は男だから、近くにいない方がいいんじゃないか?」
「何を言ってるの。こういうときこそ、ちゃんと近くにいて盛り立ててちょうだい」
「盛り立てるって……」
ペルラにとっては至極当然の役割分担らしいが、無理があるだろう、とディアバスは思った。
結婚相手を探す令嬢のすぐそばに、父親や兄弟でもない男がずっと立っていては、他の男性が近づきにくいだろう。
ディアバスは困惑してベルデを見る。
「仕方ない。最初だけ頼む」
ベルデは腕を組み、もっともらしくうなずいた。
「ペルラが場に慣れるまで、兄として近くにいてやってくれ。俺は色々な人に捕まって、ずっとついていてはやれないだろうからな」
兄貴は、ペルラに甘すぎやしないか。
「あの、僕は兄ではないんですが……」
ベルデとペルラは実の兄妹だが、ディアバスに二人との血縁はない。ペルラが生まれる前から、ベトーラ家で暮らしているだけだ。
「似たようなものだろ。赤の他人とは言わせないぞ?」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
大変複雑な心境のディアバスをよそに、兄妹はすでに結論が一致したようだった。
「そうよ、ディア。一人じゃ不安だわ。
妹が心配じゃないの?」
ペルラが紫色の瞳でディアバスを見上げる。
こうなると、結局ディアバスも、はっきり断れない。
「ええ……?」
兄妹揃ってこの調子では、結婚相手を探しているのか遠ざけているのかわからない。
ディアバスは何とも言えない顔で窓の外を見た。
馬車の列が、少しずつ前へ進んでいた。




